第49話 夕陽
翌日の早朝、予告なく撮影が開始された。
足軽姿の者たちが列体を組み、進軍のシーンを撮影する。
黒い軍勢だけで、五百人はいた。無数のカメラが、あらゆる角度で、同時に撮影する。
監督の姿はどこにもいなかった。カメラを構えたスタッフはみな、インカムをしており、見えない誰かの指示に従い、淡々と作業的に撮影してゆく。
七見は列の一部に組み込まれた。ただ、ひたすら歩く。列には乗馬している者、非戦闘員として参加しているためか、甲冑姿ではない者が食料その他を摘んだ荷車を押している。晴れていたが、泥水の中も行進した。
撮影は一日が終わる頃に夕方になっていた。
オレンジ色の夕陽のなか、槍を肩に担ぎ、甲冑姿でアスファルトの道を歩み、テントへ戻る。数百人におよぶ足軽たちは、着なれない姿での撮影に、くたびれていた。甲冑は汚れていた。無数の擦り傷もできている。それぞれ新品ではなくなり、しかし、あえて、傷がつきやすい弱い材質を使ったという話もあり、その擦り傷の影響で、人によっては一戦を経験した感じが出ている。人によっては、歴戦の傷に見える。
顔には披露が浮かんでいた。まだ勝敗は決してしないものの、自分たちがいま勝っている側にいるのか、負けている側なのかが、見通しがつかない。そういった様子があった。だが、歩みを止める者はいなかった。
七見は京一の姿を探した。だが、どこにもみつからなかった。
それからシャワーを浴びて、食事の列に並ぶ。そこまで来ると、一日のほとんどが終わった。
夜になり、あてがわれたベッドのスペースに腰を下ろす。
七見はベッドに寝転がった。天井には、明りとテントと骨組みしか見えない。
明日の撮影の予定はまだ何も知らされていない。撮影があるのかどうかさえ、わかっていない。
待つだけだった。
待つのは、慣れていた。
いま生きて、いつ始まるかわからない戦を待つ。待つだけだった。
待つだけだった。待っているだけだった。
ほんとうのことは、こちらの都合でいつも始まらない。
待つだけだった。終わりが来るのを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます