第49話

 さらに一日、待たせた。

 ミナミノは、現場を観察していた。

 参加者の手元にスマートフォンはないが、食事と寝床は用意されている。それに、この待機時間も、わるくない額の給与も支給されている。そして、実際に撮影がはじまれば、大きな好機も約束している。戦で活躍すれば、大きな役を得ることができる、と。

 ただでさえ、役に飢えている役者たちを集めた。いつでも、血を沸騰させる準備が出来ている者たちだった。

 勝てば大きい。それで、この奇妙な戦争へ参加することへの大きな違和を各々が見逃せばいい。成功した姿を想像し、麻酔となればいい。名をあげるために、あやういこの戦へ身を投じさせる。

 この特殊な撮影現場の状況を、いぶかしげる者もいるだろう。だが、これが、あたらしい撮影方法であり、斬新な映画作成である、と、うたえば、戦の間のひとときは、参加する者の疑心をごまかせるだろう。つじつまを先に考える必要はない。つじつまは、あとからつなげればいい。

 目的は、三百年前の戦場の再現だった。途方もない予算を投じているが、雇い主からすれば、然したる数値に過ぎない。

 光るバトンさえ手に入れば出来ればいい。それだけだった。映画の完成有無は、どうでもいい。映画の完成は結末ではない。

 途方もなく、巨額の資金を投じている。あのたったひとつのバトンを手に入れるための手段として、完全に常軌を逸している規模だった。

 狂気だった。しかし、ミナミノは快感も認識していた。ここまでの巨大な仕組みを、自らの立案で立ち上げ、実行へ移せた。それはこれまで知らない自分でもあった。

 自分の思い通りになると、こんなにも痛快なのか。不合理でも、不条理でも、資金力といううしろだてさえあれば、こうして可能となる。むろん、他者の金である。だが、得た立場、状況をつかって、ここまでの規模の状況を実現させた。まるで、星の地形を変えているような気分だった。

 あのバトンが、ここまで導いた。

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