第40話 所属事務所
明日から撮影だときかされた。
相手は、二週間以上前に、映画のオーディションを受けたカメマツからだった。例の低予算の時代劇映画、台詞の分配もあやしい、端役のオーディションだった。撮影は、今週の日曜に入っていた。
連格内容は、その件であり、その件ではない。
と、所属事務所からの連絡を受けた。なぞなぞみたいな言い方だった。
そこであらためて、七見から直接カメマツへ連絡をとった。夜遅かったが、かまわず、電話して言いと伝えられた。
その場から、すぐに電話をかけると、カメマツはいった。とつぜんの嵐のように、状況が変わったんだといった。
『いや、そんなもじゃないかも』と、カメマツは言い換えた。『もう、別世界になっちまったように変わったんだよね、状況が』
なにが変わったんですか。
と、七見は訊ねた。
『んー、かんたんに言うとな。莫大な予算がついた』
カメマツ自身も戸惑った様子があった。
『それに、先方さんは、きみの参加を必須だっていってね。なんだよ、なにか、ええ、きみ、特殊なことでもやったのかい、七見くん、ねえ、七見くんさ』
やや媚を売るかのように、わざとらしく二回、七見の名を呼んだ。
『ま、とにかく、明日から来てよ。もう俺のコントロール下にないけど、この映画』
その詳細な情報は、すでに所属事務所から受け取っていた。場所とスケジュールの情報だった。
夜明けとともに、家を出た。母親へ、撮影があるから明日から学校を休むと伝えた。連携あれた撮影のスケジュールでは、予備日を含めて、一週間はかかる予定だった。
昨日に続き、とつぜん、学校を休むと伝えると、母親は優れない反応をした。そこで「こういうの、これで、最初で最後だから」と続けた。
母親が言いかけた言葉を飲み込んだのがわかった。
そこへこう告げた。
「はじまりは自分じゃ決められなかった、でも、終わりは自分の手で決着をつけたいんだ」
言うつもりのない言葉だった。言って、荷物を抱え、家を出た。
集合場所は遠かった。配達のアルバイトで稼いだ資金があり、活動資金には問題なかった。まだ、誰もいない朝の駅のホームに立ち、電車を待つ。やがて、ホームへ流れ込んで来た車両へ乗り込む。
長い間、乗車した。途中の駅で、乗り換えるために電車を降りる。乗り換えだけのために降りたホームで朝陽を浴びた。やってきた電車へ乗り来い、あいていた椅子に座った。やがて、近隣の学校の登校時間とかなさり、多種の知らない制服の生徒たちが通学のため車両へ乗り込んで来た。その中に紛れる。その生徒たちも、駅に着くごとに、電車を降りて、数を減らした。授業開始時間になると、車内から学生服の者はいなくなった。
椅子に座り続けて、車窓へ視線を投げていた。流れる景色が町から山になり、やがて海になった。
海の景色は長い間つづいた。空腹には、気づいていたものの、対応する気はしなかった。身体のうったえを、無視する。
京一のことを考えていた。考えただけで、心が解放されるようなアイディアは、なにもみつけだせなかった。
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