第10話 夜空の下に
京一はヘルメットを外し、押し込めていた蓬髪を月光の下へ解放する。
鳳凰のような目で、一度、夜空を見上げる。背負っていた四角いリュックを背中から降ろす。
「おつかれさま」
と、京一へむかって、自転車のそばにいた七見が声をかけた。
七見の方はヘルメットを被ったままだった。同じようなリュックを背負っている。
ふたりして、同じ配達の労働をしていた。
「七見くん」と、京一が声をかける。
「京一くん」
「今夜は、七件、届けた」
「がんばったね」と、七見はうなずく。
「七見くんの名前と、同じ、七の数字を目指した」
「うん、うれしくないよ、その気持ち」
おだやかな口調で伝え、七見もヘルメットを取る。
ふたりが自転車をとめたコンビニエンスストアは、夜の町なかにあって、煌々と光っていた。
「ぼくは十二件とどけたよ」
「働き過ぎだぞ、七見くん」
「七件がすくないという発想に至らないんだね」
「オレは背中に背負った、料理の一品、一品へ、魂を込めて運んだ」
「食料にそういう魂入れたら、変化球の食中毒とか発生しないか心配だね」
「オレは、数より質で勝負したい」
「数をこなさないと勝負に負けたことになると思うよ、この配達のバイトのパターンは」七見は淡々とコメントをした。が、ふと、何かに気づき「京一くん、心臓が光っているよ」と、いって指さす。
「ああ、これか」
そういって、京一は上着の内側から光るバトンを取りだす。
コンビニの店内から放たれる眩い光に劣らず、バトンは周囲の闇を無差別に弾き飛ばさんばかりに輝いている。
「というか、まだ、その光るバトン持ってるんだね」
「ずっと、光ってる」バトンを懐から取りだし見せる。「夜間、自転車走行中、車におれがいるアピールするのに役立っている。電池もいらないし」
「電池はいると思うよ」
「しかし、電池を場所がない。光を切るスイッチもない、表面はつるんとしている」
「がんばって探すしかないね、電池を入れるところとか、スイッチとか」
「人生と同じか」
「どういう意味なの」
「では人生と違う」
「人生と同じか、とか、思いつきで発言ものの、その思いつき発言の落とし前が思いつかなかったから、急速に取り消したんだね」
「七見くん」
「京一くん」
「また、あした」
「うん、それがいい」七見はうなずき、ヘルメットを取った。「学校で」
言い合い、ふたりは互いへ一礼した。
そして、ふたたびヘルメットをかぶる。
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