第11話 曇った日

 昼休憩の時間、屋上にて。

「大げさに言うと」水巻は七見と、京一へ告げた。「わたしは貴方たちのことを尊敬している」

 昨日と、同じ場所、同じ配置でとり、三人で昼ごはんをとる。

 空は曇っていた。外界は翳り気味だった。

 わたしは貴方たちのことを尊敬している、という水巻の発言を受けて、七見は、どうしたんだい、急に、という表情で一瞥した。しかし、一瞥しただけで、言葉では問わない。

 じっくりと、水巻の次の発言を待つ。あわてなかった。

やがて、水巻は言った。「だって、活動費を自力で稼いでるんでしょ」

「活動費」と、七見はつぶやく。

「芸能活動資金」水巻が弁当のおかずを箸で掴む。箸の先には、ひよこ豆があった。「労働で稼いでいるって」

 水巻がそういうと、京一が菓子パンを齧る口をとめた。

 そして、鳳凰眼で見返し言った。「ひよこ豆だな」

「ぴよ」と、水巻が無表情のまま、いって返す。

 ふたりは無言のままにらみ合う。七見はしばらく、そっとしておいた後で「ふたりが健康そうでなによりだ」と、コメントし、自身の弁当を食べる。

 曇り空は、以前として、曇りのままだった。わずかな時間の流れの間に、微塵も変化がない。太陽の気配を感じさせない。灰色だった。

 水巻は「ひよこ豆、って誰が名前つけたんだろう」と、つぶやく。

「きっと」そこへ京一が告げる。「ひよこみたいな顔の人が名付けたんだろう」

「じゃあなにかい」水巻が淡々と食い下がる。「その、ひとこ、みたいな顔の人は、この、ひよこみたいな豆を見て、ああ、ひよこみたいな豆だなぁ、そして、わたしくはひよこのような顔をしてる。すなわち、じぶんの顔みたいな顔をした豆だ、ひよこ豆と名付けよう、って気になったとでもいうのかい。だったら、ひよこ豆となづけるより、じぶんの顔みたいな豆、って名づけるの可能性があったとでもいうのかい。いっそ、ひよこみたいな顔したじぶん豆、って名前ってつけた方が、消費者にわかりやすいのではないかい」

 そう話した水巻に対し、七見は顔を見ず「いっぱいしゃべったね」と、いって、弁当を食べる。

 そして、以降、その発言に対し、かかわろうとしない。

 まるで、そんな発言、最初からなかったかのように、無でいる。

 その流れで、しばらく、会話は途切れた。三人は、もくもくと食事を続ける。いっぽう、今日も屋上には他の生徒たちが集まり、雑談をしながら昼食をとっている。曇り空に負けず、みな、煌めいた笑顔を添えた会食だった。

「カネのはなしに戻そう」

 そこへ水巻が宣言する。

 京一が「嫌いじゃないぞ、カネのはなし」と、乗ってゆく。

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