第32話

 四人で非常階段をのぼる。

 いつの間にか京一が先頭だった。他の三人は自然と京一から充分な距離をとっている。

 すると、階段をのぼって、すぐに階段の上から、女性が「きゃあ」と、悲鳴をあげた。ダンボール箱が三つ、階段の下へいた京一だけへ振りかかる。

 ダンボール箱の中身は、すべてキャベツと記載されている。中身もしっかりと、キャベツが詰まっていた。よって、落下は、ギロチンの刃のごとく速い。

 そして、京一は三つすべてのダンボールの箱の直撃を受ける。しかし、倒れることなく言った。

「サンタクロースがこけて、袋をぶつまけたとき、下にいたヤツの気持ちがわかった」

といった。

 そのすぐ後、非常階段の天井の一部が京一へ落ちる。

 頭頂部に激突した。それでも京一は倒れない。

「いたい」

 と、いった。それから落ちた天井の一部を拾って壁へ寄せ、どこからかペンとメモ用紙を取りだし『オレが壊したじゃありませんから』と、メモ書きを添え、ふたたび先頭に立ち階段をのぼりはじめる。

 ダメージより、自身を無罪であることを優先させた。

 十五階まで階段であがると、ふたたび非常階段に防火シャッターが下りていた。階段では先へ進めなくなる。京一はそばにあった非常口扉を、ノックした後であけて、通路に出る。

真っすぐに伸びた通路の果てには、向かい側の非常階段の扉が見えた。京一が先頭に通路を進むと、今度は次々と、天井の一部が剥がれて落ちていった。連動するように、蛍光灯も割れて、破片が京一を襲う。

 それらをすべて、京一へ直撃する。しかし、京一はふらつきつつも、倒れず、通路の反対側の非常口の扉までたどりつく。

 そこで、ひどく背を伸ばしたまま、通路を振り返り、いった。

「すべて、いたかった」

「いや、事件だよね、これ」と、水巻がコメントを寄せる。「わたしの今日までの生涯でも、ナンバーワンの事件、および事故の数々が、いまここに集結している」

「だが、みんなは無事だ、だったら、オレも無事あつかいでいい」

 水巻は「決して、いいセリフではない」と、述べた。

 その後、京一の足を踏み降ろした階段の床板が急に抜けたり、住民らしき女性同士に口論へ巻き込まれたり、行倒れの女性がいたり、と、さまざまな出来事が京一だけを襲撃する。

 階段の床がぬけたとき京一はいった。

「オレの存在感を、支えきれなかったか」

 女性同士の口論に巻き込まれたときは。

「お金を払うので、ゆるしてください」

 行倒れの女性がいたとき。

「この人は、だいじょうぶだ。きっとワケあって倒れたふりをしているだけだ。本当に絶命しかけて倒れている人は、こんなものではない。オレの数々の経験した過去たちが、そう教えてくれている。本当に絶命、もしくは生命の危機が迫っている人は、こんな倒れ方しない。」

 それらの発言とともに、すべてをかわしてゆく。

 そして、ついに階段をのぼり切り、三十階までたどり着いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る