第44話

 合戦で活躍すれば、いい配役を得る。

 仇討ちをする男の役を得る可能性もある。

 めちゃくちゃな映画製作だった。こんな撮影体験したことも聞いたこともない。

 だが、もしも、合戦で活躍すれば、仇討ちをする男の役になれるかもしれない。そうなれば、その男の妹役に決まっている、稲里みほり、と共演になる。

 ふたたび、彼女と同じ画面の中で、演じることになる。

 その話をきいたとき、七見はどうしても、最も大きな想像をしてしまった。望みをもってしまった。

 おかしな映画製作方法だった。いや、監督は鬼才とよばれる人だし、そういった実験的な映画製作を実行することだってありえる、と考えたものの、それでも、苦しい感じがしていた。そして、とてつもなく増えた予算の件もある。

 仕組まれている。きっとそうだった。ここ最近の出会いと出来事がある。わかるまでには、まったく時間はかからなかった。子どもでもわかる。

 それでも、どこかで、もしかすると、純粋な映画づくりなのかと思いたかった。願望だった。祈りにも近い。

 この映画は利用されたのだ。目的は、アレのためだろう。

 この映画は彼のために用意され、この物語は映画以外のために消費される。

 すべてわかってしまう。子どもではないから、わかってしまう。

 夢のような話だった。もしかすると、主役を得るかもしれない。愛もなく用意された夢だとしても、夢と同じに感じた。

 七見の身体は、他者の思惑あるこの夢を回避する方法を知らない。避けられなかった。

 七見自身、ある者たちの目的のために、消費されようとしているのがわかっているのに、逃れられなかった。

 いま、こうして電車にのって、合戦へ向かっている。

 窓の外は、夕方になりかけていた。空があかね色を帯びている。

 わざわざ、幾度となく電車を乗り継ぎやってきたのは、わかっていて向かっている自身を罰するためか、あるいは、たどり着け気分にしようとしたのか、わからなかった。苦しみは足りない気がしている。ただ、引き返す気だけはないことは、はっきりしていた。

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