第27話 監視すべき
マンションに入ったとたん、京一だけではなく、七見の携帯電話からも位置情報が途絶えた。
ミナミノはコインランドリーで衣服がかわくのを待ちながら、スマートフォンの画面越しに、その動向をうかがっていた。
いつも身につけているスーツは、コインランドリーの乾燥機の中で回っている。
店内には彼女しかいない。中型、大型の洗濯機が壁を覆い、それらのいくつかがすべて回転していた。
ミナミノのスーツは、一見、高品質に過ぎない衣類にみえる、しかし、合わせて着るもの次第で、優れた通気性、または保温性を発揮し、刃もの類も容易くは通さない。小口径の銃あれば、貫通は防げないものの、通常の衣類に比べて、気休め程度の防御性を発揮する。
ミナミノが仕事の際、好んで着ている。なにしろ、高い耐久性があるので、専門店でのクリーニングなど必要ない、通常の洗濯機で洗える。そして、乾燥機にかけられる。
そのため、どこでも清潔を保てる。彼女にとって、それは重要なことだった。
そして、ミナモノ当人はいま、プリント付きの白いシャツに、プリーツスカートだった。赤い髪は、ニット帽子で封じている。黒縁のフレームの太い眼鏡をかけている。
変装であり、仮装でもあった。衝動のままに服を買い、いつもと違う服装をすることで、ストレスの緩和ができる。
伊達眼鏡越しスマートフォンの画面へ視線を向ける。そこには地図が表示されていた。駅前のタワーマンションの周辺が表示されていた。
ターゲットである、京一の友人、七見のスマートフォンの反応がマンションに入ってゆくと同時に消えた。
やはり、ただのマンションではない。ミナモノは、画面を手早く操作する。契約している特殊なサービス経由で、外套のタワーマンションの監視カメラの映像の入手を行う。だが、セキュリティが厚く、強く、映像の転送は不可能であると回答が返って来た。
むろん、違法なサービスである。そのため、手加減不要で、たいていの監視カメラの映像は、リアルタイムで入手、転送可能だった。
それができない。
そういえ『海の老人』はいっていた。
空が森も、バトンを狙っている。そして、あのマンションは、まるごと空が森の管理下にある。
いや、誇張して言い換えれば、あのタワーマンションは、こうともいえる。
空が森の支配する、塔である。
そこまで考えて、ミナモノは、半分飲んでいた瓶ビールへ唇を添え、喉を見せて大きくあおった。
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