第45話 線路に沿って歩く
線路に沿って歩く。草原はどこまでも延々と続いていた。陽が沈むと、大きな間隔をあけて立った外灯が、ぽつぽつ、光ってみた。
ひどく暗い。と、七見は思った。
だが、一駅の距離を歩き終わる頃には、さらに暗くなった。いままで体験していた夜は、このあたりではまだ、光ある夜だったと知る。
一駅歩いて次の駅へいっても、あたりは似たような景色だった。草原であり、人家もほとんどない。
最後は丘になっていた。七見は坂を上り、頂上へつく。
草原の中に、煌々と光る一帯があった。
野営をしている。大量の刀や槍を担ぎ運び込まれている。甲冑が並び、戸板に無数の弓矢が立て替えてあった。足軽姿者たちが、スマートフォンを手にあたりを行き交う。その合間を大小のトラックが何台も行き交っていた。広範囲にわたり、目隠し用のシートで囲われているが、意味をなさない。遠くに、巨大な城のセットが聳え、かがり火のつき具合を試しているスタッフがいる。大型バスが何十台と駐車され、喫煙所は、和装とスーツ姿の者が煙草を吸っていた。照明と、それ以外の夜間作業用に設置された明かりは数えきれないほどある。せわしなく動く者たちがいた。じっと待機している者もいる、食事をとり、談笑している者もいる。二階建ての仮設のプレハブがいくつも並び、大量の電源を確保するために、束になった太いケーブルがはみ出ていた。水を積載した車両が並んでいる。湯気が出ている、浴場と書いたテントが四つあった。
何百人いるかわからない。まるで町のようになっていた。
戦争の準備をしているようにも見える。そこに展開されていた光景は、人間が、ひとめで入れていい視覚の情報量を、遥かに越えている。そのため、現実感がない。
だが、途絶えることのない、音が紛れもない。撮影スタッフの声と、セットを組み立てる音。行き交う車両の音。
だんだん、怪獣を倒す準備にも見えてくる。
七見は、こんな映画撮影の光景を見たことがなかった。
しかし、すべて見たことがある撮影の光景の集合体だった。七見の知っているものだけで出来ている世界だった。
いま七見の立っている丘の上には、光がない。月明かりも頼りにならない夜だった。見下ろす先の広大な範囲に、とてつもない光りたちがいる。映画の光だった、物語の光でもある。
やがて、七見はその光へ向かって、坂をくだった。
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