第38話

 昼休憩に入ってすぐ、教室で、前の席に座っている水巻が振り返り告げた。

「京一くん、今日も呼び出されたよ、今度は茶道部から」

 七見が見返す。水巻はスマートフォンを手にしながら続けた。

 どうやら、その情報は、スマートフォンによって連携されたらしい。

「猫だってさ」水巻がスマートフォンを操作しながら言う。「茶道部の部室に、シャープな動きをする猫が侵入したって、いま爪で畳をばりばり中で、元気のいい猫で誰も捕まえれないんだって、そこへ京一くんが召喚された、と、いま、タレコミがあった」

 教室の窓の向こうでは、雨が降っていた。かなり強い降り方だった。

 水巻の話を聞き、七見は無表情に近い顔で、窓の外を見た。やがて「そうなんだ」と、いった。

 ほどなくして、七見のスマートフォンが振動した。だが、確認はしなかった。数秒ほど遅れて、水巻のスマートフォンにメッセージが来る。『茶道に関心のある猫の出没のため、今日の昼ごはんは申し訳ない』と書かれていた。

 水巻は画面のメッセージを凝視して「茶道に関心のある猫の出没のため、という奇怪な文面で、相手に伝わるとでも思ったのかね、あの特殊生命体は」と、淡々といった。

 その後で、水巻は七見へ顔を向ける。

 対して七見は、表情を変えず、しばらくして一度、瞬きをしてから「人気があるね」と答えた。

 少し間をおいてから水巻は「うん」とうなずいた。「そうだね、人気だ。タダで助けてくれるし」

 そう返したものの、七見に目立った反応は起きなかった。

 水巻は、また、少し間をあけてから「じゃあ、本日はアレだ」と、いって、七見の前の自席へ着つく。「自由昼食だ。おのおの、自由に食べよう」

 そういってカバンから弁当箱を取りだし、自席の上へ置く。

 そして、時間があいてから水巻は「雨だしね」と、思い出したようにいった。

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