第6話

 翌日、昼食時間になると、別のクラスである京一が七見のクラスの教室へやってきた。

 京一は「昼ごはんを屋上で食べよう」と、告げた。

 彼の上着のポケットが、やや膨らみ、若干布地を貫通して発光している。

 ある意味、期待を裏切らないんだね。と、七見は心のなかでつぶやき、そして、特殊な安心を得た。

 それから七見は窓の外を見る。雨がふっていた。

 ざあざあぶりである。

「京一くん」

「七見くん」

「このランクの雨が降るなか、屋上で昼ごはん食べる人って、将来出世しないと思うんだ、あらゆる業界で」

「あきらめるのか」

 鳳凰のような目で問いかけてくる。その眼光は鋭く、向けられた方は、迷惑な負担を追うことになる。

 七見は「去年、雪が降ったときも、きみが屋上でごはん食べようっていったとき、じっさい、食べている間、白米に雪が積もった経験があるからね、あきらめるよ」と、返す。「白メシに、雪で、寒さより、切なさにやつけられそうになったし」

 そういい、七見はカバンから弁当箱を取り出す。机の上に乗せた。包みをといて、蓋をあけ、箸をとり、箱のなかで、綺麗にひしめき合う品々のなかから、均整のとれた卵焼きを取りだし、口へ運ぶ。

「卵焼きがおいしい」と、七見は感想を告げた。

「くれるのか」

 と、京一は問いかけた。

「なぜそう思った」

「自分でもわからない」

 きっぱりと回答を返してくる。

「とりあえず」と、七見は言い「隣に座りなよ、今日もまた」と、告げた。

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