第4話 AIチャットをカスタマイズ

「AIって、意外とすごいのかもな。そうしたら、これに質問していけばいいのか?」

「そうそう。そうなんだけど、なんだかこのままじゃ、味気ない喋り方だよね。せっかくならさ、可愛いアシスタントにカスタマイズしよう」


「……は?」


 如月は時々、可笑しなことを言い出すんだよな。

 変な方向にこだわるし。


「ちょっと借りるよ。これはね、僕が独自に開発したUIなんだけどね」


 如月は、プログラミング競技大会で上位入賞しまくっている腕の持ち主。

 こいつは、一流のプログラマーなんだよな。

 カタカタとキーボード操作だけで、画面がどんどん変わっていく。


「僕は絵とかは描けないけどさ、見る目だけはあると思ってるんだよ」


 そう言ってる間に、美少女の画像が表示された。


「これ、有名な絵師に似てるな。お前の好きな絵」

「そう、これを3Dにカスタマイズしていくんだ。おいら流に、もうちょっとカスタマイズしてみるね」


 如月は、目を輝かせながらキーボードを叩いていく。


「どうどう? これ可愛く無い?」


 パソコンの画面の中には、細部まで綺麗に仕上がった3Dの美少女が出来上がった。


「初めまして。私が如月君をサポートします」


 チャット形式の文字と一緒に声が出てきた。


「これ、声まで出るの?」

「そう。音声も合成して出せるようにしてるからね」


「すごいな……。なんだか雰囲気がすごい変わった。本当の女の子に話しかけられているみたいな」


 また、こいつはすごいものを作り出してしまったな。


「何でも質問してください」


 心なしか、喋り方も変わっているような気がするし。


「本当の女の子とは、緊張して上手く喋れないおいらたちにも、この子なら大丈夫だろ?」

「何でも、お気軽にどうぞ」


 可愛い子が話しかけてくれる。

 人によっては、これだけで満足しちゃうかもしれないな。

 けれども、これこそ虚構なわけで。


 人間でも無いコンピューターにモテたところで、虚しさが倍増するだけ。

 俺は、これで、満足しちゃいけない。

 モテるための方法を考えて行かないと。


 ふいに如月が割り込んできた。


「そうそう、こういうのを使って、卑猥なことをする輩もいたりするんだよね」

「……なんだそれ?」


「このディスプレイの中の女の子が可愛いからって、色々エッチなことを聞いたりしてね」


 俺は如月の事を、すごく軽蔑した目で見てやった。


「いやいや、僕はやらないよ。僕は、二次元は大好きだけれども、作品の中の乙女たちが好きなわけで。僕の方を振り向いてくる奴なんて、願い下げだよ」


 ……いや、こいつの慌てぶりを見ると怪しいんだよな。

 別に咎めないけれども、こいつの顔には「エッチなこと質問してます」って書いてあるみたいだし。


「おいらが試してあげるね。例えばね、こんな質問とかしても、ちゃんと返ってこないっていう例を教えてあげよう」


 別に俺はそんなことしないと思いながら。

 女の子に見えるって言っても、結局はコンピューターなわけだもんな。

 そんなのに、卑猥なこと言っても楽しくないだろ。

 如月は、カタカタと文字を入力していく。


「今日の下着は何色なんだい?」

「……如月。いつも、こんなこと聞いてるのか?」


「いやいや、これはあくまでも例だよ。こういうことを聞くやつもいるって言うこと。けどね、こういう質問に対してはNGが返ってくるんだ」


 如月の質問に、美少女が嫌悪の顔を浮かべて喋り出した。


「……おいこら。何聞いてくれてるんじゃ。セクハラで訴えるぞ。このクソ豚眼鏡」


 先ほどの喋り方とは、変わって低い声で返してきた。


 ……なるほど。こういうことが起こるのか。

 さすがにコンピューター相手でも、これを言われるのはちょっと嫌だな。


 そう思って如月の方を見ると、如月は恍惚な顔で画面を見つめていた。

 そして、こちらに向いて満足げな顔をした。


「ねっ?」


 こいつは、そういうやつだったな……。

 若干、息遣い荒くなって興奮してるしな。


 俺は、この状況を打破したいんだよ。

 如月は、ディスプレイの方に向き直ると少し不思議そうな顔をした。


「いつも言われるけれど、こんなにはっきりと罵ってくるのは初めてだな。これは意外と癖になるかも」


 やっぱり、いつもやってるってんじゃねえか。

 それも楽しんでるし。


 俺は、絶対に聞かないでおこう。

 これは虚構だもんな。

 俺はリアルでモテモテになるためにやってるんだからな。


「如月。こんな回答だとしてもことでも、AIに対してフィードバックしておいた方が良いのか?」

「そうだそうだ。これは、良い反応だったから。それを教えておかないとだね」


 如月は、ディスプレイの方を向いて、満面の笑みで言うのだった。


「とっても良かったよ」


 そんな如月に対して、俺とAIチャットの声が揃った。


「「何言ってるんだよ、このくそ豚眼鏡」」

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