第5話 AIチャットの裏側(※四之宮 卯月の視点)

 私は、引きこもりだ。

 高校に入学したものの、登校したのは最初の一週間くらい。


 別に学校が嫌いっていうわけではないけれど。

 人と関わるのが苦手。


 私の友達は、もっぱらパソコンだけ。



 真っ黒なディスプレイに、私の顔が写る。


 こんな地味な奴。

 ‌学校にいなくても誰も気にしないだろう。


 女子高生という特権を持っていたとしても、こんな性格だもんな。

 明るい高校生活なんて、送れるわけがない。


 入学して一週間で、私は諦めた。

 ‌一人だけ友達になれるかもしれないって思ったやつはいたんだ。私の考えに似てそうな人。

 ‌気が合うかもなって思って眺めてたら、そいつはパソコン部に入るって言ってた。


 入学初日の事だったけれども、勢いで私もつられてパソコン部に入部してしまった。

 結局学校に行かなくなったから、私の事。幽霊部員なんて呼んでいるんだろうな。


 けど、しっかりと部活動だけはしている。

 家から学校の環境に繋いでいるのだ。


 高校の部活動という名目で、AIチャットサイトを立ち上げた。もちろん私が運営している。

 ここには、いろんな人がアクセスしてくる。

 学校外部にも公開しているから、本当にいろんな人が利用しに来るんだ。


 それぞれ、人は悩みを抱えている。

 自分じゃ解決できないから、AIに質問をしに来ている。

 ‌自分で考えろって悩みや、どうにもならないから諦めろって悩みまで。

 AIに向かって、自分の願望をダラダラと書いてる。

 ‌誰かに情報を漏らすわけでもないけれど、プライバシーは全部筒抜け。


 みんな、ネットリテラシーが低いって感じるよ。

 インターネットっていうものを、もっと疑った方が良い。

 ‌自分のパーソナル情報である、会社名、学校名、役職。

 ‌住んでる地域や個人名まで書くやつもいる。



 私は管理人の立場で、色々と見える。

 ‌そういうのを見て、人間は欲の塊だなって思って虚しくなってる。

 ‌分相応な人生を楽しんだら良いって思うよ。


 暇だからAIへの質問をダラダラとみていたら、二階堂にかいどう如月きさらぎからの質問が見えた。

 こいつもパソコン部に入っているのを見かけた。

 明らかにパソコン好きそうな顔してたからな。


 ん? ‌如月のやつ、変な質問してきたな。

 ‌あいつは、五十嵐いがらし皐月さつきの事が気になるのか?

 分不相応すぎるだろ。

 あの、豚眼鏡。


 AIチャットのカスタマイズまで変えてくるし。

 あいつもあいつで、技術力はあるんだよな。

 AIチャットを美少女仕様にするなんて、アイツらしいけど。

 相変わらず、気持ち悪いな……。


 暇だから、ちょっとからかってやろうかな。

 このサイト、『自動モード』じゃなくて、私が答えることもできるんだよね。


 声を出すようなカスタマイズもしているし、ちょうどいい。

 私が直接話してやろうっと。


「初めまして。私が如月君をサポートします」


 精一杯の可愛い声でそう言うと、返ってきたのは意外な声。

 如月じゃなくて、一之瀬いちのせ睦月むつきの声だった。


 学校のパソコン室からのアクセスだもんな。

 パソコン部で、ちゃんと活動を続けてるんだ。

 そうだよね。良かった。



 こういうAIチャットに興味無いかと思ったけど。

 というか、五十嵐皐月に対する質問をしてきたのは睦月の方か?

 こいつ、皐月の事が気になるのかな?

 とりあえず聞いてみるか。


「何でも質問してください」


 睦月は、何を聞いてくるんだろうな……。


「そうそう、こういうのを使って、卑猥なことをする輩もいたりするんだよね」


 ……豚眼鏡の声。なんで睦月の方じゃないんだよ。


 そうだった、こいつ。

 毎回、ヤバイことばっかり聞いてるんだよな。

 ログは残ってるし、晒上げてやろうか。

 睦月に対して、言い訳ばかり並べやがって。


「AIちゃん。今日の下着は何色なんだい?」


 ……やっぱり聞いてきたよ。

 くそ野郎だな。

 調子に乗るから、思いっきり罵ってやろう。


「おいこら。何聞いてくれてるんじゃ。セクハラで訴えるぞ。この豚眼鏡」


 これに懲りて、もう言ってくるんじゃねえぞ。

 まったく。


「……これは意外と癖になるかも」


 まったく、男ってやつはこれだから嫌いだ。

 こいつからのアクセスは禁止しようかな。


「とっても良かったよ」


 そんなこと言って。

 ‌こいつは、救いようも無いな。

 プツンと来たから、きっちり言ってやらないとな。


「「何言ってるんだよ、このくそ豚眼鏡」」


 睦月と私の声が揃った。


 ‌ははは。睦月もそう思うよね。


 ……私も学校に行ってたら。

 ‌……睦月と仲良くなれてたかもな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る