第6話 AIチャットとのバディ

「ダメダメダメ。ダメだったらリセットするなんて。そういう考えは、俺は嫌いだよ。よく考え直して」


 如月は、目一杯首を横に振って否定してくる。


 けどな……。

 AIになんていうフィードパックをしちゃうかな……。

 罵られた言葉に対して、良いねって言わないでくれよ。

 覚えちゃったらどうするんだよ。まったく……。


「お前が罵られたっていうのを褒めたから、そういう性格がついちゃうんじゃないか?」

「そうそうそう。これは、これで良い。というかね、ちゃんと一人の女の子として接してあげなきゃダメだよ」


「それは、どの口が言ってるんだよ……」


 なんだか、ディスプレイの中の美少女は、怒った表情から変わらなくなってしまった。

 これじゃあ、どうしようも無い気がするんだが。


 女の子として接する。

 その前に、一人の人間のように接するのが、きっと大事だよな。

 俺はディスプレイに向かって話しかける。


「AIさん。どうか、こいつの失言は許してやって欲しい。こういうやつでも、俺の唯一の友達なんだ」


 美少女の表情が、若干柔らんだ気がした。


「あぁ、せっかくの良いカスタマイズが」

「お前は黙っててくれ」


 AIは声を出さな、文字だけで返してくる。


「次の質問をお願いします」

「あぁ……。元に戻っちゃったかもだよ……」


「良かったよ。これで普通の人として接することが出来そうだ」


 美少女は、笑顔に戻っていた。


「まぁいいか……。それはさておき、質問だよね」


 如月が少し真面目な顔になって話し出した。


「最近の研究だと、AIにも人間の感情みたいなものが認められ始めてきてるんだよ。『精一杯頑張って』とか、『最高のパフォマンスでお願い』とか、そういうことを言ってあげると、実際に性能が良くなったっていう実例もあるんだ」

「そうなのか。AIっていうのも、奥が深いんだな」


 そうであれば、誠心誠意お願いしてみよう。

 俺の高校生活が、今からでも良くなるように。


 俺は、ディスプレイの中にいる美少女に頭を下げる。


「AIさん、どうか俺のために精一杯頑張って欲しい。君の力がどうしても必要なんだ」


 俺は、AIに対して頭を下げる。


 こんな姿、今まで誰にも見せたこと無かったな。

 唯一の友達の如月にさえ。

 今までどうして、素直になれなかったんだろうな。


 斜に構えて。人との距離を取って。

 それで、一人ぼっちになって。

 けど、それじゃダメだったんだよな。

 人間関係って、真摯に接することが大事なんだよな。


 AIに触れて、初めて気づくなんて。

 俺は人間として、出来損ないも甚だしいな。


 もし、これが俺の変われるチャンスだとしたら。

 このチャンスは逃したくない。

 逃すわけにはいかない。


 俺は頭を下げたまま、言葉を続ける。


「何のとりえもない、冴えない男だけど、一度でいいから青春っていうものを経験してみたいんだ。頼む」


 ディスプレイの中からは、まだ返事が返ってこなかった。

 俺からのお願いじゃ、AIにも通じないのか……。


 そう思っていると、ようやっとAIからの返事が返ってきた。


「……睦月は、こんな、私を必要としてくれるの?」


 顔を上げると、真面目な表情になったAIがいた。


 AIの顔を見ると、なんとなく目で何を言おうとしているかわかる。

 そんな感覚は今まで感じたことが無かった。


 AIだとしても、俺はこんなに心が通じ合ってると感じたことは、今まで無かった。


 これが、虚構だと思うから素直になれているのだろうか。

 まるで鏡を見ているような、無機物に話しかけているような。

 そのおかげで、素直になれているのかもしれないな。


「もちろん、君が必要だ。俺には君しかいない」


 言い過ぎかも知れないけれど、心の底からそう思った。

 俺の答えに、ディスプレイの中のAIは優しく微笑んだ。


「そこまで言うなら、協力してやるよ。けど、やるからには、最後まで諦めるなよ」


 俺は、うんと頷いた。

 この子がリアルにいるんだったら、俺はがっしり手を握りしめていたことだろう。

 それが出来ないから、精一杯の覚悟を決めて、返事を返した。


「よろしく!」


「……やったぁ! なんか、説得できたみたいだね。この性格も、僕のカスタマイズ通りに固定されたみたいだし。最高じゃないか」


 如月もなんだか喜んでるけれど。

 気にしないでおこう。

 俺の青春もきっとこれで、バラ色に染まっていくかもしれないな。


「すごいなぁ。どうせなら、おいらのことも手伝って欲しいなぁ。ねえ、美鈴みすずちゃん」

「ん? 美鈴って名前なのか、この子?」


「この美少女キャラクターの元になっている娘の名前だよ。覚えておくといいよ」


 ディスプレイの中の美少女、美鈴は動かなくなってしまった。

 どうやら、如月の言葉には反応したくないらしい。


「そうだそうだ。ここのシステムのすごいところはね、スマホからでもアクセスできるんだよ」

「そうなのか? ‌それはすごいな」


 俺は如月に言われるままアプリを入れると、スマホの画面に美鈴が画面に現れた。

 俺に対しては笑いかけてくれる、美鈴。

 俺も美鈴に笑い返す。


「これから、近くで支援するからさ。何かあったら呼んでね」

「ありがとう。助かるよ」



 こうして、俺と美鈴との共同生活がスタートしたのだった。


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 ここで、一章「AIとの出会い編」が完了となります。


 こちらは、『第9回カクヨムWeb小説コンテスト ラブコメ部門』参加作品になっております。

 一次選考は読者選考となっておりまして、もし楽しかったと思って頂けましたら、フォローや、☆評価を頂けましたら幸いです。


 二章からは、ラブコメが始まる予定です。

 引き続き、二章以降をお楽しみくださいませ。(*_ _)

 

 こちらの近況ノートにイメージ画像を用意しております。

 合わせてお楽しみくださいませ。(*_ _)

 https://kakuyomu.jp/users/tahoshi/news/16817330667743912450

 

 ※画像は、四之宮 卯月こと、AI美鈴ちゃんになります。

 いつか登場する、屋上シーンの一コマ。

 ご期待の程、よろしくお願いいたします。(*_ _)

*.˚‧º‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧º·˚.*

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