2章 初デート編

第7話 モーニングコール

「おはよう一、朝だよー?」


 どこからか、女の子の声がする。

 カーテンから漏れてくる光はあるものの、部屋の中はまだ暗い。


 女の子の声が聞こえるなんて。

 ……そんなわけがないか。


 ここは、俺の部屋。

 女の子なんているわけもないし。


 俺は、そういうゲームもしないし。

 そんな動画も、昨日は見てないはず……。


 モテたいがために、そんな夢を見るようになってしまったのかな。

 そうだとしたら、俺は末期症状だな。


「おーい。朝だよー? 起きないと遅刻するよー?」


 やはり女の子の声がする。

 声のする方は、枕元に置いた俺のスマホからだ。


 けど、女の子と電話なんてしないし。

 幻聴が聞こえちゃうなんて、すごいな。

 そんなに病んでたのか、俺は。


 おそるおそるスマホの画面を覗き込むと、そこには美少女がいた。

 その子が、俺に向かって話しかけてきた。


「やっと目を覚ました?」

「……うーんと。あっ! びっくりした! 美鈴か」


 そういえば、昨日お願いしていたんだった。

 朝の目覚まし時計代わりに、起こしてもらえないかなーなんて。


 やましい気持ちは、全然無いと自分に言い聞かせながら。

 試しにそんなお願いしてみてたんだ。

 せっかくスマホに美鈴がいるならと思って。

 一度でいいから、可愛い女の子に起こされたいな、なんて。

 そのくらいなら、不純な使い方じゃないよなって思って。


 ……けど、時間が早すぎないか? まだ、五時台……。


「別に、あんたのことなんて、どうでもいいけどさ」


 なんだなんだ、美鈴。

 急にツンデレモードみたいになって。

 それもこれも、如月の仕業か?


「君の、バラ色な高校生ライフをサポートしてやろうって思ってさ」

「そ、そうなのか? ありがたいけれども、こんなに朝早く起きても、バラ色にはならないのでは……?」


 美鈴は、少し不貞腐れた顔をして答えてくる。


「五十嵐皐月ちゃんが登校するのは、この時間なの。君も早く準備していくと良いよ。そうすれば、二人きりで登校できるよ」


 なんという良い情報。

 それは、早く準備した方が良さそうだな。


 ……けど、そんな一緒に登校なんて。

 たとえ同じ時間に通学路にいたとしても、一緒に登校するなんて。

 そんな上手くいくなんてことがあるのか?


「今日は、サッカー部の朝練があるんだけど、彼女はサッカー部員よりも早く登校するんだ」


 追加の情報も次々出てくる。

 その情報はどこで手に入れてるんだか。AIの力はすごいな。


 眉唾だけれども。信憑性はありそうな気がするし。

 騙されたと思って、行ってみるか。


「そうだ。私を外にAIを連れ出すときは、ワイヤレスイヤホンでも付けておくといいよ。それとマイクね。私が状況に応じてアドバイスしてあげるからさ」


 美鈴には、そんなこともできるのか。

 そもそも、俺のことを考えて、予め準備を促してくれるなんて。

 かなり有能な秘書を持った気分だ。


 最近のAIってやつは、そんなにも進化しているんだな。

 如月の技術力が半端無いっていうことかも。


 俺が戸惑っていると、美鈴が話しかけてくる。


「君が本気だっていうから、私も本気になってるんだよ」

「なるほど。わかった、ありがとう。俺は、美鈴を信頼してる」


 そう言うと、画面の中の美鈴は、すこしはにかんで答えてくれる。


「もちろんだよ。私に任せて!」


 そうとわかれば、早く着替えないとだな。

 俺は、一気にパジャマを脱ぎ捨てる。

 上下を脱いで、パンツ一枚の姿になる。


「……っちょ! 女の子の前でいきなり着替え始めないでよ! 待って待って!」

「……え? あれっ? そうか! 映像も認識するんだっけ。ごめんごめん。そういうところも気にしないといけないんだ。なんだか、本当の女の子みたい」


 俺は、スマホ画面を裏返した。


「これで、見えないだろう。申し訳ない。そういう仕様だってわかってなくて。わざとじゃないから、如月みたいに冷たくしないで欲しい」


「……わかったよ。今度から気を付けるように」


 AI美鈴は、意外と乙女なんだな。

 これを悪用するやつがいると思うと、そんな奴と友達付き合いするのは、ちょっと考えちゃうかもな。

 如月に言っておこう。


 着替え終わると、ワイヤレスイヤホンを持ち、家を出た。


「それじゃあ、二人きりでの登校を目指して、行ってみよー!」

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