第46話 脚本待ちのパソコン部
屋上での昼食が俺の憩いの時間になっていた。
前までは屋上で昼飯を食べると、暑い日差しが降って来てうざったいと思っていた。
けど、最近ではパソコン部にいる方が面倒ごとが面倒ごとが降ってきてしまうのだ。
如月と二人っていうのも、案外落ち着く。
「睦月。オイラも、美男って言われていたってことだよね。嬉しいなー」
額に汗を浮かべながら呑気に昼飯を食う如月。
「いや、多分お前は美男でないぞ」
「そんなことないだろ。六波羅さんが、『パソコン部は美男美女しかいない』って言ってたし。オイラも演劇というものをしてみないといけないんだね」
「お前が手伝うとしたら裏方じゃないかな……。細かい小道具作るとか、大道具運びとか」
相変わらず如月は、俺の話を聞いていないようで妄想を膨らませていた。
「いやー。オイラは、三次元に興味なかったけども、もしも、キスシーンなんてあったらどうしようかな。練習でいっぱいチューしないといけないんだよね。そうしないと、本番ではちゃんとできないし」
如月の妄想力が逞しいのは、昔からだけれども。
確かに、どんな作品をやるつもりなんだろう。
依頼が来たけど、まだ具体的な話を聞いていないんだよな。
まさか、今から脚本でも書き直しているんだろうか。
あんまり恥ずかしいシーンが無ければ良いけれども……。
俺の隣では、妄想を膨らませている如月がしゃべり続けていた。
「華がある舞台っていう事で、美女が四人もいるわけなんだよね。それを最大限に生かした舞台にしようと思うと、やっぱりそれぞれ一人ずつとのキスシーンを設定してだね……」
こいつが脚本じゃなくて良かったって思うよ。
俺には、そんな脚本は耐えられないな。
妄想を膨らませた如月は、目をつぶって一人一人とのキスシーンを演じていた。
こういうやつが居てくれるから、俺は正気を保っていられるのかも知れないな。
俺も出演することになるなんて、YAYOIさんを恨みたいよ。
夏休みは家でのんびりする予定だったのにな……。
一通りキスシーンの練習をし終わった如月は、キラキラした目でこちらを向いてきた。
「パソコン部、夏休みの予定が無かったから丁度良かったね! これは、今までにない楽しい夏になりそうだ!」
まぁ。
如月の言う事にも納得だけど。
俺だけだったら、ひきこもって無駄に過ごしていたかもしれないから。
屋上には、夏の日差しが降り注ぐ。
今年の夏は、暑くなりそうだな……。
◇
午後は、必然的にパソコン部へ向かうのだが、相変わらず美鈴の姿は無かった。
窓が割れた部室は、暑いからしょうがないか。
今は、自己修復を急いでもらうのが優先だもんな。きっと。
YAYOIさんと、五十嵐さんは部室にいるのだが、PCの前でいつも以上にカタカタとキーボードを鳴らしていた。
「演劇ってどうやればいいか分からないんですよね。パソコン部に初めて来た時もそうですけれども、なんだかウキウキしてきますね。どんな風にすればいいか、しっかり予習しておかないと」
五十嵐さんは、何事にもやる気があるようで、演劇にも力を入れるようだ。
サッカー部マネージャーをしていただけはあるというか、熱いところがあるみたいだ。
「皐月、まだ台本ももらう前だから、そんなに気合入れても、しょうがないぞ? 時間も少ないから、こういう時は、効率的に準備を進めないといけないからな。必ずあるシーンかつ、見せ場のシーンを練習するのが良いぞ」
なんだかんだ、YAYOIさんもやる気のようだった。
「演劇の見せ場といったら、何と言ってもキスシーンというの万国共通」
「なるほど、それでいて、男役は誰かっていうのは、決まっているわけですね」
YAYOIさんと五十嵐さんは、変なスイッチが入ったのか、ウキウキした目でこちらを見てくる。
そこに、如月も話に入ってくる。
「うんうん。それに、女役は四人もいるわけなんだよ。これは、四回も見せ場が作れるという事だ。それぞれ違ったテイストで観客を魅了するわけだから、たくさん練習する必要があるわけで。なにごとも、練習っていうのは大事だから。本番一回で上手く行くことなんて無いんだよ、練習は大事だよ」
パソコン部の面々は、ウキウキした目で俺を見つめてくる。
……美鈴さんは、みんなの制御役だったのだな。早く戻ってきて欲しい。
――ガチャ。
おぉ。
俺の思いは、ちゃんと美鈴に通じている気がするぞ。
救世主は、遅れてやってくる。
そう思って、振り返ると、入ってきたのは六波羅さんだった。
「脚本決まったので、持ってきましたよー」
偽の救世主は、いつも余計なものを持ってくるからな……。
不安しかない……。
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