第45話 文化祭の交渉

 パソコン部にお願いに来た六波羅さんは、話を続ける。


「秋に控えた文化祭にですね、出し物をする申請をしようとしたんですよ。それが、なんと却下されまして」


 YAYOIさんはパソコンを見つめたがら、興味無さそうに答える。

「ふーん」


 六波羅さんは、気にせず話を続ける。

「それでですね。却下理由としては、もうちょっと集客できるようにしろって言われて」


 再度興味のない返事。

「ふーん」


 六波羅さんも、さすがに気付いたようだった。

「……相槌はありがたいですが、全く興味無さそうですね」

「うん」


「……まぁいいや。話しは続けますけれども。それで、集客をするために、華を用意したいと思ってですねなるほど、それで美男美女のパソコン部に助けを求めに来たんです」



 YAYOIさんは、やっとパソコンから目を外して六波羅さんを見た。


「はい。要件はわかった。けど、今日はやけに素直にお願いするんだな? ‌六波羅なら、色んな手を使って来ると思ったんだけどな」


「別にいつでも誰にでも噛み付いているわけじゃないですよ。私だって、嘘つきたくてついてるんじゃないんです」



 真面目な顔で話す六波羅さん。

 意外と素直な子なのかも知れない。


 YAYOIさんは、またパソコンに目線を戻していた。


「で、私たちへの報酬は?」


 ビジネスライクだ……。

 YAYOIさんって、すごく淡白だよな。

 契約社会のアメリカで育ったっていう雰囲気をビシビシと感じる。



 六波羅さんは、少し困ったように返す。


「ええっと……、何かあげないといけないのですか……。私の事まだ嫌ってるんですか? ‌困ってる人を助けようとか、そういう気持ちは芽生えないですか?」


「いや、六波羅のこと別に、嫌いじゃないよ。才能がある奴が私は好きだからさ。それとこれは別。後で揉めないように、こういうことは最初に決めないとダメだ。後から言っても、お前はちょろまかすだろ。特に、大金が見えたりしたらさ」


 六波羅さんは、痛いところを突かれたと、ひるんだようだった。


「うっ……。さすがパソコン部のエースは、先読みがすごいですね。それでは、チケット代の1割でいかがでしょうか」


「やだ」


 即答するYAYOIさんに、六波羅さんは言葉を続ける。


「だって、大道具に費用がかかったり、練習場所を確保したり、実施する場合の体育館使用料って言うのも払う必要があって」


「大体それが、儲けの五割くらいだろ」


 YAYOIさんには、全てお見通しといった感じで、六波羅さんは押されているようだった。


「うえ……。なんでわかるんですか……」



 YAYOIさんは、少し得意気になってきた。


「美鈴に次ぐ、パソコン部エースを舐めないで貰いたい。それを加味しても、うちがもらうのは、四割。そっちは一割」


「は……、そんなの多すぎますよ……」


「さっきの言い分だと、そっちでメイン張れるのは、六波羅くらいだろ。こっちは、女子三人プラス、睦月も入れるからさ。むしろ、私たちがいないと、成り立たないんだろ?」


 すごく困った表情を浮かべる六波羅さん。


「うう……。足元を見てくるんですね……」


「変な演技しても無駄だからな。その条件を飲めないなら、協力はしないから」


 キッパリ断るYAYOIさん。

 交渉慣れしてるな……。

 カッコイイ。


 六波羅さんは困った挙句、俺に抱き着いてきた。


「睦月君、どうにかYAYOIさんを説得してくださいよ」

「い、いや。俺は何も出来ないよ……」


「なんでもしますから……」


 六波羅さんは、目を潤ませてせがんでくる。

 ぎゅーっと胸を押し付けて。


 甘い匂いが、鼻を刺激する。



「色仕掛けができるのは、六波羅だけじゃないんだよなー。睦月はどっちの味方かな?」



 YAYOIさんは、俺の後ろに回り込んできて、抱き抱えるように身体をくっ付けてくる。

 俺の肩の辺りに顔を近づけてきて、吐息が耳をくすぐる。

 なんでか、みんな俺を挟みたがるらしい……。


「……えっと、二人とも少し待って、ここ居ない美鈴の意見も聞かないとだよ」


 俺が絞り出した声でそう言うと、携帯から声が聞こえてきた。


「見えてるよ、二人とも。まず睦月から離れろ」


 たまに出る、お怒りの美鈴の声だった。


「あら、見えてたの?」

「見えてるなら、パソコン部に来いよー」


 二人は、俺から離れていった。


「よし。それじゃあ、交渉の続きしよ」


 落ち着いた美鈴の声。

 やっぱり、美鈴の声を聞くと安心するんだよな。


 美鈴は、淡々と続ける。


「YAYOI、あなたの条件だと、かなり少ないよ」

「ほえ?」


「演劇部に貢献することになるの。そして、公演が無事に出来る事で、来年以降に部費の交渉や、新入部員募集にとっても有利。部活の評判が良ければ、大学への推薦も有利にに働く」


 なんだか、家にいる美鈴は、頭の働きがすこぶる良いようだ。


「六波羅さんが、そのあたりの利点を隠しているところには、目をつぶってあげるけど。もし、昨年以上に公演が成功したら、私の言うことを一つ聞いて欲しい」


 六波羅さんは、天を仰ぐと美鈴に答えた。


「なるほどですね、そういう利点もあるのですね」


 六波羅さんは、美鈴の言い当てたことを、元から企んでいたかはわからなかったが、うんうんと頷いていた。


「私が簡単に出来ることなら、良いですよ」


 美鈴の交渉により、条件が一つ追加された。

 何をお願いするかは分からないが。


「じゃあ、パソコン部。全面協力しましょう」


 YAYOIさんも、うんうんと返事をしていた。



 すごいな二人とも。

 六波羅さんを言い負かしたようだった。

 俺に依頼が来たら、二つ返事で受けちゃいそうだったけど。


 AIと、天才プログラマーがいれば、交渉はとても強そうだ。

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