6章 演劇部からの依頼編
第44話 演劇部からのお願い
パソコン部での放課後の活動。
先日、窓を割られてしまったため、部屋が微妙に冷えない。
空調と、冷房、それに外の部活の声も聞こえてきて、なんだか賑やかな部室であった。
「それにしても、美鈴が騙されちゃうなんてな。六波羅さんは、相当食わせ物だな」
既に、部活に馴染んでいるYAYOIさん。
パソコンを弄る手を止めて、うちわを扇ぎながら和やかに話してる。
部屋が暑いのか、長く細い手足にも、じっとり汗をかいているように見えた。
「美鈴さん、ちょっと打たれ弱いところがありますよね。気にしなければいいのに」
隣に座る、五十嵐さんも手を止めて話し出す。
こちらも、汗ばみながらうちわで扇いでいる。
二人の仰ぐ風に乗って、良い匂いが部室の中に漂っていた。
前は男しかいなかった部室からは考えられないな。
話の中心である美鈴は、騙されてしまったことがショックだったのか、部活に顔を出さなくなってしまった。
人間的に言うと、そういうところだが。
実際のところ、処理できるキャパシティを超えてしまったことでの、メンテナンス中だと思われる。
暑い部屋では、自己修復メンテナンスも出来ないだろう。
俺も手を止めて、YAYOIさんの話に交じる。
「YAYOIさん、美鈴を直してくださいよ。大会に勝った時のお願いで、一度直してくれたじゃないですか」
「は? 何だっけそれ?」
YAYOIさんは、とぼけた顔をしている。
「しらばっくれないでくださいよ。知らないって言い張るなら、あの時の話はまだ有効っていうことですよね? 大会でYAYOIさんに勝ったら、何でもしてくれるって言ったこと」
「あーそんなこと言ったっけ。そのお願いはまだ叶えてなかったな。何でも、良いよ。ちょうど美鈴もいないし、今なら何でも大丈夫!」
YAYOIさんは、背筋を正して俺の方を向く。
相変わらず、スタイル抜群。
ワイシャツのサイズがピッタリなのか、姿勢を良くすると、身体のラインがすごく強調される。
暑いからか、女子校でも無いのに、スカートの丈を気にせずギリギリまで上げてしまって。
他の子には無い、色気が漂う。
「ええ。YAYOI、ずるいよ。睦月君、私もなんでもウエルカムですよ」
五十嵐さんも、背筋を正して俺の方を向く。
身長は小さいながらも、他の子とは違って胸がある。
姿勢を良くすることで、ピッタリと着こなすワイシャツから出してくれと言わんばかり胸が強調される。
五十嵐さんの雰囲気から想像される柔らかさが、全部詰まったような胸部が、今がチャンスと自己主張してくる。
ゴクリ……。
美鈴がいないのに、美鈴の置き土産がすごいことになってます……。
固まってしまった俺に対して、YAYOIさんは、少し首を捻りながら言う。
「アメリカだった、そういうの普通だぞ。スポーツだよ、スポーツ」
『そういうの』って、何を言ってるのか。
俺には、ちょっと、何の話か分からないですけれども……。
五十嵐さんも、何やら納得したような顔をして頷いて、言ってくる。
「なるほど。スポーツだったら、私も詳しいですよ。サッカー部のマネージャーしてましたからね、いっぱいサポートしますよ!」
こちらは、天然味があるから、さらに厄介な気もする。
二人は、椅子を俺の方に寄せて、ずいずいと迫ってくる。
俺には、まだ早い大人の階段が迫ってきているみたいです。
私を登れ登れと……。
最初の段差がすごく高いですよ……。
うぅ……。
どうしたものか……。
その時、部室のドアが開いた。
美鈴が、助けに来てくれたのか。
そう思ってドアの方を向くと、そこにいたのは美鈴ではなかった。
救世主かと思いきや、そこにいたのは、六波羅さんだった。
「あら、お楽しみ中でしたか? 二対一なんて、睦月君は贅沢ですね」
美鈴がおかしくなった原因の六波羅さん。
飄々とパソコン部に顔を出すんだな。
俺は、迫ってくる二人から離れながら、六波羅さんに答える。
「そんなんじゃないよ。何の用だよ」
六波羅さんは、少しあらたまって言ってきた。
「あのですね、少しお願いがあってきたんです。
美男美女ばかりのパソコン部の方に」
YAYOIさんと五十嵐さんは、少し嬉しそうに笑い出す。
「ははは。お世辞だとわかってても嬉しいものだな」
「ふふふ。そうですね。さすが美鈴さんを欺くだけは、ありますね。お上手です」
笑う二人の反応を見ながら、六波羅さんは話を続ける。
「いえいえ。美人さんだって思っているのは本当ですよ。だからお願いしに来たんです。ちょっとパソコン部の方々に、舞台に立って欲しいです」
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