第47話 演劇の脚本

「脚本は、こんな感じですね」

 六波羅さんは、概略が書かれたプリントを皆に渡した。


 それを渡された皆は、食い入るように読み始めた。


 俺も読んでみる。




 なになに――。

 虐められている女の子が主人公。

 そんな子が、お城の王子様に憧れる。



 ふむふむ――。

 周りの身内は、お城の社交パーティに呼ばれるが、主人公だけ行けずに、家の掃除をさせられる。

 そんな所に、魔法使いがやってくる。


 それで、お城へ行けるようになって、王子様に見初められて、ハッピーエンド。




 ……あれだな。

 シンデレラを基調とした物語のように見え

 る。


 ささっと一読して、六波羅さんを見ると、ウキウキとして、感想を待っているようだった。


 この反応を見ても、この脚本は六波羅の趣味が大いに現れているように思える。

 少女趣味なストーリーで、高校生がするには、少し子供っぽい気もするが……。


 プリントを読み終わったYAYOIさんは、口を開いた。

「これは、良いな! ‌乙女心に刺さる」


 五十嵐さんも続けて言う。

「ロマンチックで良いです。これは、とっても良いです」



 女子の反応は上々のようだった。

 わかりやすいと言えば、そうだとは思うけれども。

 もう少し男性ウケを狙ってみても良いかなと思ったりしちゃうな。

 俺はやらされるだけだから、あんまり脚本に口出ししないけれども。


 ちなみに、如月の反応はどうなんだろうな。



 そう思って、如月の方を見るが、まだ脚本を読み込んでいた。



 うーん。もう少し待つか。

 プリントに目を戻すと、配役も書かれていることに気がついた。

 主人公のシンデレラ役は、六波羅さんか。


 六波羅さんは、演劇部だから一番演技上手いだろうし、適役なんだろうな。

 それは分かる。


 いじめっ子役が、YAYOIさんと五十嵐さんなんだな。


「これは、練習の時から本気でやった方が良いのかな?」

「もちろん、そうですよね?」


 なんとなく、二人の黒い部分が垣間見えた気がしたが……。



 それで、他の配役を見ると。

 王子役には、俺の名前が書いてあった。

 やっぱり、俺なんだな……。


 俺も出演させられるということで、嫌な予感しかしなかったが。

 こんな大役の演技なんて無理だぞ……。



 あとは。

 如月は魔法使い役として出て、美鈴は馬車を引く馬役。


 この辺りは、なんとなく適役な気もするな。


 俺が最後まで読んだところで、如月が口を開いた。


「六波羅さん、せっかく女子を入れたのに、あまり目立ってない気がする。これだと、パソコン部が全然活かせてないよ。それぞれに王子様とラブロマンスを入れないと」



 それに対して、六波羅さんは首を振った。


「いえ、私……いや、主人公が目立たないと、物語としては見応えが無いのです」



 如月は、食い下がらなかった。


「けど、まずは、舞台を成功させないとだよね」


 なんだか、変なスイッチが入ってしまったのか、如月が熱くなっているみたいだ。

 少し興奮していて、鼻息が荒い。

 こういう時の如月は、放っておくに限るんだがな。


 六波羅さん、ご愁傷様です。



「舞台には、舞台の良さってあるんだよね」

「それは演劇部なので、知ってるつもりですけれども」


「舞台だと、繊細な表現というよりは、大げさくらいが丁度良くて。脚本についても、大げさくらいが丁度良いと思うんだよ」

「まぁ、それはその通りと思います」



「だからこそ、これじゃあラブロマンス部分が少し薄いんだよ」

「そう言いますと?」


「もっと情熱的に愛を表現しないとだよ」

「なるほど、なるほど?」



 如月が暴走するかと思ったら、意外と話が成り立っている気がするな。


「まずはね……」


 皆、如月の話に夢中になっていた。


 もう、そういうのは、如月に任せちゃっていいのかも知れない。

 アニメやら舞台やら見過ぎるくらい見て、目が肥えてそうだからな。



 俺は、与えられたことをこなしていこう。

 なるようにしかならないからな。

 祈るしかない。



 ワイワイと皆が話す中、美鈴はどんな感じに思うかなと、気になった。

 美鈴は、俺が一番頼りにしている存在だからな。

 今までも、これからも。


 俺は一人で話の輪から外れて、脚本の写真を撮る。

 そして、それを美鈴へと送ってみる。

 すると、すぐに音声での連絡が来た。



 久しぶりに、美鈴の声が聞けたのだが、いつもと違って、なんだか思いつめたような声をしていた。

 ワイワイしている皆とは違って、美鈴だけが世界から切り離されたような雰囲気を感じた。



「睦月はさ、作られた嘘の世界だったとしても、幸せだったら良いって思う?」



 なんだか、変な心理テストみたいな。

 相変わらず、俺には意図のわからないことを聞いてくる。

 脚本に対してってことだよな?

 ハッピーエンドが嫌いなのか、美鈴は?


 シンデレラの話なら、幸せなハッピーエンドである方が良いだろう。

 美鈴には、正直に答えないとな。



「俺は、嘘でも幸せな方が良いと思うよ。やっぱり、みんなが幸せになれる、ハッピーエンドを目指すのが良いと思う」


 美鈴は、黙って聞いていてくれる。


「嘘だとしても、俺は構わない。嘘でも、俺には、一人だけで手一杯だし。だから、俺には、美鈴が必要だなって思ったよ」

「……それって、どういう意味?」



「そのままの意味だよ。俺には、やっぱり美鈴が必要で。美鈴がいないと、ハッピーエンドにはならないと思うんだよ。美鈴が必要だよ」


 俺の言葉に、少し考えた後に美鈴は答えてくれた。


「また、明日から部活行くよ」

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