第48話 卯月の決断(※四之宮 卯月の視点)

 六波羅に言われて。

 本当の事を言わないのも、嘘をついてるだけって。


 私は、嘘つきだな……。



 やっと、自分の気持ちが分かったっていうのにさ。

 本当のこと言わなきゃだよ……、卯月。

 嘘つきなままじゃ、睦月に合わせる顔が無いって思ってきて……。

 もう、どうすればいいんだよ……。



 机に突っ伏して。

 自分を一度シャットダウンしてみる。

 真っ暗な視界。



 何も見えない世界。

 この世界にずっといたんだよ、私は。

 なのに、どうして私はこんなにアクティブに外に出れたんだろうな……。


 もう何もかも辞めて、引きこもりに戻ればいいんじゃない。

 そうすれば、悩んで苦しむことも無くなる……。



 真っ暗な世界で、スマホが鳴る音が聞こえる。



「睦月から連絡だよー」


 呑気な私の声で言うんじゃないよ……。

 AIなんてさ。

 結局、人の気持ちなんて分からないんだよ……。


「早く出なよ? ‌勝手に返事しちゃうよ?」

「……やめろ」


「『本当は人間だ』って隠してること、そんなに悩むことなのかな?」

「……」


「卯月が睦月にやってることで、悪いことなんてあったの?」

「……ない」



「じゃあ、今のままでいいんじゃない?」

「それじゃあ、私が納得できない……」


「じゃあ、睦月に聞けばいいじゃん。どうすればいいか」

「それはそうだけど……」



「AIだってさ、全てが正しいわけじゃないんだよ。矛盾だって発生する。嘘だっていうし。本当の事を隠したりもする。それでも、いてくれたら安心するんじゃない?」

「うん」



「それが、嘘だって思って、嫌がったりするのかな? ‌卯月は私のこと、嫌い?」


 私が作ったAIってさ、こんなこと言ってくる。

 いつも先の事を考えてて。

 何でもお見通しって感じで言ってきて。

 けど、実際のところ何も考えてないんだよ、こいつ。


 私の反応を見て楽しんでくれちゃってさ。

 私と同じだなって思っちゃう。


 やだやだ。

 本当にやだよ。


「美鈴の事なんて嫌いだよ」

「じゃあ、卯月は私の言うことは聞かないで下さい」


「もちろんだよ」



 睦月からの連絡。

 こいつには答えさせてやらないんだから。


 いつもおせっかいやいてきてさ。

 私の事を、ちゃんとわかっててくれて。

 私の事を、良い方向に導くんだよ。

 そういうところが、嫌いだよ。



「卯月は相変わらず、素直じゃないよね」

「うるさい、ばか!」



 睦月からの連絡を確認すると、演劇の脚本が来ていた。


 演目は、シンデレラか。

 魔法で自分を偽って、王子様に近づいて。

 それで、時間が来たら魔法が切れてしまう。

 嘘をついてたなら、当然の報い。


 けど、その後王子様が探してくれて。

 みすぼらしい、本当の姿を見つけてくれる。

 そんな作り話。

 そんなことって、本当にはあるわけないじゃん……。


 美鈴が喋りだす。


「なんだか、卯月みたいだね。魔法が解けても、王子様にちゃんと見つけてもらってね」

「……まだ、魔法は継続中だよ。明日からまた睦月に会いに行けるように、ガラスの靴用意しておいてよね」



 私は、睦月に直接連絡する。


 シンデレラの話、魔法で作られたお姫様。

 そんなのでも、好きなのか。

 聞いてみないと分からないから。


「睦月はさ、作られた嘘の世界だったとしても、幸せだったら良いって思う?」

「嘘だとしても、俺は構わない。嘘でも、俺には、一人だけで手一杯だし。だから、俺には、美鈴が必要だなって思ったよ」



 ……美鈴が必要ね。


「……それって、どういう意味?」

「そのままの意味だよ。俺には、やっぱり美鈴が必要で。美鈴がいないと、ハッピーエンドにはならないと思うんだよ。美鈴が必要だよ」



 美鈴の事が必要なんだってさ。

 それは、魔法にかかった状態の私なんだよ。


 そろそろ、王子様の目を覚まさせてやらないと。

 それで、本当の私を見つけてもらわないとな、やっぱり。


 私は睦月に返事をした。


「また、明日から部活行くよ」



 そう言って、電話は切った。


「美鈴、ガラスの靴できた?」

「いえいえ、そんなすぐにはできませんよ。私魔法使いじゃないですし」


 的外れな回答のようで、これは時間稼ぎの時のとぼけた回答。

 作ったのは私だからさ。

 わかるよ。

 美鈴も私も、天邪鬼なんだよ。



 しばらく待つと、美鈴が答えてくれる。


「睦月に本当のことを言って、それで他の三人から睦月を奪還するための方法が分かりました」


 美鈴の考える事なんて私も分かってるよ。

 だって、美鈴も私だもん。


 美鈴の答えと、私の声が揃う。


「演劇の脚本まだ決まってないみたいだから。まずは、六波羅からシンデレラ役を奪い取らないとだね」



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 いつも、御愛読の程ありがとうございます。(*_ _)

 ここで、六章『演劇部からの依頼編』が終了となります。



 次が最終章になる予定です。

 まだもう少し物語は続きますので、どうぞ見守り下さいませ。(*_ _)



 それでは、いつものお願いです。


 こちらは『第9回カクヨムWeb小説コンテスト ラブコメ部門』参加作品になっております。

 一次選考は読者選考となっておりまして、もし楽しかったと思って頂けましたら、フォローや、☆評価を頂けましたら幸いです。

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 合わせてお楽しみくださいませ。(*_ _)

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