最終章 シンデレラ
第49話 朝練、復活!
夏は、日の出は早い。
朝早く出てきた太陽は、何時だろうと空を明るく照らしてくれる。
そして、一度昇り始めた朝日は、周りの気温を一気に高くしていく。
夏の太陽は、誰にも止められないのかも知れない。
そんな朝の時間帯。
久しぶりに、俺のスマホが鳴り出した。
「睦月―、朝だよっ! 起きてーーー!」
朝のモーニングコール。
パソコン部で出場した大会以来だな。
最近は、美鈴からの連絡が無くなっていたのだが、久しぶりに元気良く俺を叩き起こしてきた。
何かが吹っ切れたような明るい声。
やっと、AIの自己修復が終わったのかな?
元気のある美鈴が起こしてくれる朝は、なんだか気分も良いな。
けど、久しぶり過ぎて、ちょっと眠い感じもするが。
スマホを覗き込むと、まだ五時になったばかりであった。
「睦月、朝練だよっ! 早く降りてこーい!」
「朝練……? こんな早い時間に? 降りて来いって……。まさかとは思うけれども……」
「それは、もちろん。演劇の朝練だよ。家の前で待ってるから、早く出ておいでー!」
美鈴は元気いっぱい答えてくれた。
元気になってくれるのは、嬉しいけれども……。
いきなり過ぎるだろう……。
「……今まで、待たせ過ぎちゃったからさ」
美鈴はボソッと独り言のように呟いていた。
小さい声過ぎて聞き取れなかったけれども、処理の誤作動なのか?
また明るい声に戻って、言ってくる。
「そうだ、そうだ! 朝のエチケットは忘れるなよー? 顔洗って、歯を磨いて、すぐ出てこーい!」
美鈴に言われなくても、するけど。
いつも通りすぐに準備を済ませて、玄関を出ると、ニコニコと笑う美鈴が出迎えてくれた。
「おはよう!」
美鈴は、いつもと同じはずなんだけれども、なんだか前よりも明るく見えた。
梅雨が明けた後の空のような。
季節は、既に夏真っ只中なのだけれども。
美鈴の顔は、これから夏が始まることを期待させるような、清々し明るさをしていた。
「じゃあ、朝練に行きましょう。王子様?」
「え、いや、何を言ってるの……」
「自然体な演技をするには、日常からやるのがいいんだよ。ほら?」
繋げと言いたげに、手を差し出してくる。
そうは言っても、美鈴はシンデレラ役でもないし。
なんなら、人の役でも無いのだが……。
「大丈夫。舞台が成功するような脚本を作ってきたからさ」
「そうなのか。さすが美鈴、仕事が早い」
そう言って、俺は美鈴の手を取る。
「それとさ、今日からは私のことは『卯月』って呼ぶようにして。六波羅の前で、美鈴なんて呼ぶと変なことになるでしょ?」
「あぁ。確かにそうだな。みす……、いや、卯月はやっぱり頼りになるな」
俺の返事に、『美鈴』あらため『卯月』は、もじもじと恥ずかしそうにしていた。
心を込めて褒められると、AIはパフォーマンスがアップする。
最初に、如月に教えておいてもらって良かったぜ。
続けて、俺の本心を伝えてやる。
「俺には、卯月がいないと始まらないからな! じゃあ、朝練でも何でもやってやる! また今日からもよろしくな!」
「……うん!」
そして、恥ずかしながらも、俺は卯月と手を繋ぎながら登校をしたのであった。
◇
朝早くの学校には、誰もいない。
各部活の朝練っていうのも、まだ始まらない時間帯。
俺は卯月と、パソコン部の部室に二人でいる。
美少女AIというものに対しても、意外と緊張するもので。
手を繋いでいる間は、ドキドキしっぱなしであった。
相手がなんだろうと、慣れないものだな……。
卯月は、部室ついても手を放してくれなかった。
俺から言い出さないと、放してくれないかも知れないな。
「あの、そろそろ放しても良いんじゃないか、みす……いや、卯月?」
「……そっか。そうだね、二人きり。そろそろ話しておいた方が良いかも、だよね」
卯月は、そう言いながら、もう一方の俺の手を握ってきた。
……離してと言ったのに。
……やっていることが、逆なのだが?
俺の目を見つめてくる卯月。
さっきまでの笑顔は消えて、真面目な表情になっていた。
「……私ね、実は」
そこまで言いかけると、部室のドアが開いた。
――ガチャ!
「グッドモーニングー!」
「おはよーございますー!」
ドアを開けた二人。
YAYOIさんと五十嵐さんが入ってきた。
「あら、二人とも朝早いね!」
「朝練する時は、誘ってくださいよー!」
卯月は、二人を見るなり俺の手を離した。
そろそろ離した方が良いって、こういうことか。
二人が朝練に来ることを予見していたんだな。
相変わらず、卯月は先読みが鋭いな。
YAYOIさんと五十嵐さんは、楽し気に話しだした。
「ふふ。別に、卯月が誰が好きだって構わないんだよ、友達だから応援もするし。けど、それは、逆もまた然りだろ?」
「浮かれて過ぎて、抜け駆けに失敗しちゃいましたね、卯月さん!」
三人は、ニコニコと笑いながらも、バチバチと熱い視線を交わしていた。
……皆、そんなに演劇が好きだったのか。
気合入れて、朝練までしようなんて。
しかも、これって、シンデレラ役のことを言ってるよな。
これは、なかなか熾烈な争いになりそうだ……。
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