第50話 対決の火蓋!(※四之宮 卯月の視点)

 ふぅ……。

 まさか、二人ともこんな朝早くに来るなんて予想してなかったよ。

 二人は、荷物から脚本を取り出したり、準備をしていた。



 しっかりと先を見据えて、組み立てなおさないとだね。

 いつだって、新しいプログラムを開始するときは、バグだらけ。

 エラーが発生したとしても、慌てず対処する。

 むしろ、バグは悪いことじゃない。

 見つけるべきステップで、見つけられたことを喜ぶべきだね。

 最初に見つけられて良かったよ。


 皐月が、睦月に話しかける。


「美鈴さんのこと、卯月って、呼ぶようにしたんですね! ‌羨ましいなー。睦月君、私も下の名前で呼んでくださいよー! ‌皐月っていう、可愛い名前があるんですよー?」

「え、いや、卯月って呼ぶのは、六波羅さん対策であって……」


 皐月は、こちらを見てくる。


「あら? ‌まだなんですか?」

「まだだよ」


 私が答えると皐月は、うんうんと頷いて「わかるよー」って言ってくる。

 一体、皐月に何がわかるのよ。


「それであれば、私の方が一歩リードできますね!」


 皐月はそう言って、睦月の方を向き直す。


「睦月君、一回呼んでみて下さいよー!」

「え、えっと、皐月……」


「やったー! ‌ふふぅ、今度からその呼び方でお願いします!」



 皐月は、嬉しそうに睦月と手を握りあっている。

 私が連れて来たようなものだけどさ。


「……別にいいもん。私の方が先に呼んでもらったもん。皐月は、私よりも後だし……」


「ん? ‌卯月何か言ったか?」

「いや、何にも言ってない。睦月、鼻の下伸ばしすぎ、ばか」


 私と手を繋いだ時も、同じ顔しろよ。

 ばかばかばか……。


「えっ? ‌お、おう。すまん。って何で謝ってるんだろう、俺」


 私の心の声は、聞こえるはずもないけれども、睦月は慌てて皐月の手から抜け出した。

 予想外のことが発生すると、私は弱いな。


 一歩リードなんてされても、最後に選ばれることが大事だもんね。

 そのためには、情報収集。


「そう言えば、脚本って決まったの?」


 どうにかして、シンデレラ役をものにすることが、必要。

 単純な睦月の事だもん。

 ヒロイン役と入念な練習なんかしたりしたら、コロッと落ちちゃうんだから。

 だから、誰にも譲れない。

 私の呼びかけに、皐月は眉をしかめて答えてくれた。


「そうそう、それがさ、まだ決まってなくって。昨日は、六波羅さんと如月君でなんだか意気投合しちゃってさ。二人で脚本の書き換えを進めてるみたいなんだよね」


 その二人で進めるっていうと、なんだか不安しかないけれども。

 特に如月は、危ないし。


「それで、如月君は、四人ともに見せ場を作るって意気込んでるんだよ。『ヒロイン乱立のハーレム構成こそが、男子票を獲得するんだよ!』って言い出して。六波羅さんも意外とノリノリになってきてね」

「うん、思った通り、如月のせいでダメな方向に進んでるな……」


「それでね、六波羅さんはね『演劇っていうのは、リアリティが伴ってこそ、観客を魅了するんだ!』ってことも言い出してね」

「うん、六波羅もやっぱり、ダメだ。どうにかしないと……」


「それで、今日にいたる訳です。まずは、みんなで仲良くなろうって言ってたんだよね、睦月君!」


「……えっと? ‌それを二人とも受け入れた感じなの?」


「もちろん! ‌やるからには、私もいつも全力です!」


 皐月は、目を光らせている。

 YAYOIも、乗り気のようだった。

 睦月の隣に座って、睦月へと体を寄せた。


「私もね、やるからには勝利を収めないと気が済まないからね。今度は負けないよ、卯月!」


 昔から、二人とも真っすぐで良い奴なんだよね。

 これは、スポーツとか、競技大会とかじゃないんだけども。


「私も、譲らないからねっ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る