第51話 発声、ストレッチ!
朝のパソコン部の部室にて、なぜだか俺たちは演劇部の朝練メニューをしているのだった。
早速、五十嵐皐月さんが場を仕切り出す。
「それでは、練習をしてきたいと思います。最初の練習メニューは、『声出し』ですね。まずは、皆さん立ってください」
サッカー部の元マネージャーだけあって、手際よく進めようとしてくれる。
練習のサポートをお手の物といった雰囲気である。
練習内容が書いてあるのか、五十嵐さんの手には紙があった。
俺たちは、五十嵐さんに言われるままに席を立つ。
「それで私に続いて発声してくださいね。『あめんぼあかいなあいうえお!』」
「「あめんぼあかいな、あいうえお!」」
最初の発声練習。
俺たちの声に、五十嵐さんはニコニコと笑いながら頷いていた。
「いいですね。初めから声が出てますよー! もっと大きい声でいきましょー!」
卯月も、YAYOIさんも顔を見合わせてうんうんと頷いている。
楽しそうな雰囲気。
こういう朝練っていうのもいいかもしれない。
五十嵐さんは、紙を見ながら次の発声を続ける。
それに合わせて、みんなで発声していく。
「かきのき、くりのき、かきくけこ!」
「「かきのき、くりのき、かきくけこ!」」
なんだか、部活って感じで、ちょっといいな。
こうやってみんなでやると、なんだか楽しくなってくる。
メニューは、少しありきたりかもしれないが、基本は大事っていうことが分かる。だな。
やってみて初めて分かるが、しっかり口を開けて発音する練習になるんだな。
『あ行』、『か行』ときて、次は『さ行』かな。
五十嵐さんは、紙を読み進める。
「さつき、すきすき、さしすせそ!」
「「さつき、すきすき、さしすせそ!」」
この練習って、最初の部分しか聞いたことなかったけど、『さ行』ってこんな風に続くんだな。
『さ行』まで来ると、ちょっと難しい。
とても、口を動かす練習になるな。
「良いですね! じゃあ、睦月君一人で言ってみましょう! 『
「
五十嵐さんのニコニコした顔が、段々と赤くなっていくように見えた。
じっと見ていると、紙で顔を隠してしまった。
「うんうん、よく出来ました。このメニューは、後でまた個別にレッスンしましょう、王子様役の睦月君は特に必要です」
「お、おう。そうだな、王子っていうと大事な役だもんな」
卯月とYAYOIさんは、じろじろと五十嵐さんを見ていた。
今にも怒りだしそうな、不穏な空気が流れる。
それは、当然の反応だよな。
自分たちが演じる役に対して、甲乙を付けられてるようなもんだし。
この練習は、個別にやるとして。
次のメニューに移るのが良いかもな。
「じゃ、じゃあさ、この練習は後で個別にやるとして。次の練習をしようぜ!」
不穏な空気は、すぐにはおさまらいなようだった。
◇
「次のメニューは、私がやろう!」
そう言って、YAYOIさんが練習メニューの書いた紙を持った。
「皐月みたいに、メニューは変えちゃいけないからな。ちゃんとこれに沿ってやらないと練習にならないだろ」
「そうだそうだー」
小さい声で、卯月も反応していた。
強気じゃない卯月っていうのも、実は可愛いかも知れない……。
「このメニューを見ると、『ストレッチ』っていうのも演劇には大事らしいぞ。声を出したりするにも、身体から、演技するにも柔軟にっていうことかな」
俺には分からないが、そういうもんなんだな。
「それじゃあ、まずは上半身だな。体側伸ばしっていうやつだ。まずは思いっきり腕を高く上げてー」
「「はーい」」
ジャージなどに着替えることもなく、ワイシャツ姿で上に伸ばす腕。
YAYOIさんは、ぴったりと身体のラインに合うような大きさのワイシャツを着ている。
それで腕を伸ばすと、さらに身体のラインが強調されるようだった。
上に上に。
視線を寄せてはいけないと思いつつ、ついつい見てしまうな。
YAYOIさんは、そのまま後ろに状態をそらせていく。
形の良い胸の膨らみが強調される。
――ゴクッ。
そらせた上半身が段々と戻ってくる。
動く膨らみをただただ見つめてしまった。
YAYOIさんと目が合う。
見てしまっていたことにお叱りを受けるかと思ったが、ニコっと笑顔で返された。
「睦月もちゃんとやらないとダメだぞ?」
そう言って、YAYOIさんは俺の前に立つと、俺の手を取って上へと伸ばしていく。
YAYOさんは、背が高くて俺と同じくらいあるからな。
「私が支えているから、きちんと伸ばせよー」
同じくらいの身長といっても、離れてしまっていては限界まで腕は伸ばせないのだろう。
前から俺にぴったりとくっついてくる。
YAYOIさんの顔が俺の隣に来て、頬が触れ合う。
そして、先ほど見つめてしまった膨らみが俺の胸へと押し当てられる。
……柔らかい。
そんな様子を、身長の低い卯月と五十嵐さんが、じろじろと見てくる。
「YAYOIさん、そういうのは普通後ろからですよ!」
「分かってないみたいだから、私が代わってやる」
俺の耳元の近くで、YAYOIさんが優しい声で答える。
「後ろからの方が良いのか? それでもいいぞ」
YAYOIさんは、後ろに回り込んで来て、後ろから抱き着くようにして俺の腕を上げてくる。
先ほどの柔らかさが、後ろに来た。
そして、耳元に顔を寄せてくる。
「どんどん、伸ばしてー」
最高まで伸ばして、キープ。
その後は、後ろへと状態をそらされる。
「YAYOIさん、そういうのは背中合わせでやるものです」
「私が代わる!」
そう言って、わらわらと二人で俺を囲みだした。
「私が左腕をストレッチしますねー」
「じゃあ、私は右腕」
何かよく分からないが、俺はみんなから拘束されてしまった。
両腕と、背中に柔らかな膨らみを感じながら。
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