5章 演劇部襲来編
第35話 新入部員
放課後に、パソコン部部室にいつものメンバーが集まった。
俺と如月。
そして、五十嵐さんと美鈴。
朝練の時に、美鈴に妙なことをされたけれども。
特にその後は、いつも通りの美鈴だった。
大会が終わったっていうのに、相変わら俺に対してプログラミングを教えようとしてくる。
AIへの命令を解除しようと思って、大会は終わったことをちゃんと伝えたし、十分五十嵐さんと仲良くなれた事を伝えたんだけれども。
「それであれば、今度は私と仲良くなって下さい」とか、良く分からないことを言って、俺につきっきりで教えてこようとする始末。
どうすれば良いのやら。
「いやー、僕たち優勝したんだね! すごいことだよ」
マイペースな奴は、もう一人いた。
元々パソコン部にいたやつだけれども、今回の大会が三人チームということで、如月だけメンバーには入れなかったのだ。
プロクラミングの能力はすごいのだけれども、能天気なんだよな。
「すごいね、皐月ちゃん。すごいよ、睦月。そして、すごかったです、美鈴様」
それぞれと握手をしながら功労を称えてくれた。
調子がいいな如月は。
美鈴も、如月を嫌っていたようだけれども、なんだか柔らかい表情になっていた。
俺以外の三人で、談笑をし始めた。
一時は、美鈴が壊れちゃったかと思ったけれども。
元通りになったみたいだし、良かったよ。
しかし朝のことを思い出すと、恥ずかしくなるな……。
まさか、俺の耳に攻撃してくるとは思わなかった。
それはずるいだろと思うが。
俺が匂いフェチ以外にも、物理的に耳が弱いという情報を、どこかから仕入れてきたんだろう。
あえて甘噛みするあたり……。
「お前の弱点は、バレているんだぞ」っていう脅しだったのかも知れないな……。
これじゃあ、先が思いやられるな……。
そういえば、YAYOIが朝からこの学校にいるなんて、なんだかおかしな状況だったけどな。
だって、あいつは、別の高校の代表として大会に出ていたわけだし。
自分が負けたっていうことが分かったっていってたな。
もしかすると、俺がお願いしようと思っていた『美鈴の修理』をしに来てくれたのかもしれない。
それも、朝一で。
わざわざ自分の負けを認めるような律儀なやつだもんな、YAYOIは。
俺がお願いする前に、その考えを汲んで直してくれている可能性が高そうだ。
恐るべし、YAYOIさん。
そうだよな。
今考えると、YAYOIさんって、良いやつだったな。
……なんかセクシーなお姉さんって感じだし。
もしも、五十嵐さんがいなかったとしたら、俺はYAYOIさんのことを追っかけてたかも知れないな。
こんなことを美鈴に言うと、五十嵐さんの時以上に、また暴走しちゃうだろうな。
――コンコン。
談笑しているところに、部室のドアが叩かれた。
こちらが反応するよりも早く、扉が開いた。
「たのもー」
……この声。
……今朝も聞いたような。
ドアの方を見ると、そこにはYAYOIが立っていた。
「ハロー!」
「ハ、ハロー?」
「単刀直入に言うよ。今日から、私もこの部活に入りたいんだが」
「……はっ?」
部室にいた一同、ポカンと口を開けていた。
「私はアメリカへ留学していて、つい先日日本に帰ってきたんだ。急いで帰ってきたから、適当に家の近くの高校に編入してたけれども。こっちに転校しようと思ってね」
「……えっと、何のために?」
「卯月に、プログラムの事を学びたいなって思ってね。強いやつはここにいたんだって思って。ねぇ、卯月?」
なんだか、YAYOIさんと美鈴は、やけに仲が良さそうだな。
大会で四之宮卯月として名前登録していたから、卯月と読んでいるのだろうか?
けど、YAYOIさんは、美鈴のことをAIだって分かってたんだよな。
五十嵐さんやら、如月への配慮なのだろうか。
YAYOIさんは、細かい所まで気が回りそうだし。
YAYOIさんは、ニコニコして美鈴を見つめていた。
やっぱり最新のAI技術が気になるんだろうか?
確かにこんな技術、アメリカにも無いかもしれないし。
YAYOIさんが近くにいて、美鈴のパフォーマンスが下がらなければいいのだが……。
「卯月のお気に入りの、睦月君も気になるしね」
そういって、YAYOIさんは俺の方を向いてウインクをしてきた。
どういうことか、さっぱり……。
俺が、AIを使いこなしていると見なされているのだろうか……。
隣で、美鈴が低い声でYAYOIさんに向かって言った。
「……睦月に手を出したら、怒るぞ」
「どういう展開か分からないが、美鈴。俺はYAYOIさんでもウェルカムだぞ」
俺がそう答えると、美鈴はすごく険しい顔を俺に向けてきた。
YAYOIさんはイタズラっぽく笑っていた。
「ははは。そうかそうか、ここでは、美鈴って呼んだ方が良いのか。美鈴ちゃんは、熱くなると、すぐ調子悪くなっちゃいますね。よしよし。すぐ直してあげますからね」
そう言って、YAYOIさんは美鈴の頭を撫でた。
YAYOIさんと美鈴……。
仲が良いのか悪いのか……。
AIやら、天才の考えることは、俺には良く理解できない……。
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