第36話 新たな刺客!

 いきなりパソコン部への入部宣言をしたYAYOI。

 そんなYAYOIさんに、頭を撫でられている美鈴。


 二人はとても仲良く見えるけれども、美鈴は怒っているように見える。

 しばらく一緒にいたから、何となく表情で分かってしまうな。



 美鈴に我慢の限界が来たのか、撫でられている手を掴んで、YAYOIさんと一緒に部室を出て行ってしまった。

 YAYOIさんは、個別に怒られちゃうんだろう。

 ご愁傷さまです……。



 残された、俺と五十嵐さんと如月は、美鈴が出ていったドアをぼーっと眺めていた。



 美鈴の行動はいつも短絡的に見えるけれども、俺の考えが及ばないところで全てを上手く転がしているんだよな。

 実は、この状況も美鈴の計算の内なのかも知れない。


 学年で一番人気の五十嵐さんを入部させたり。

 他校の女子も呼び寄せたり。

 それも、全員とも俺の好みをわかっているかのように選ばれた子がやってくる。

 美鈴様々だよ。



 何はともあれ。


 美鈴が作ってくれた今の状況も、活かさないとだな。

 また大会の前と同じように、五十嵐さんにパソコンを教えてあげよう。


 そう思って五十嵐さんの方を見ると、五十嵐さんは、何か楽しいことを閃いたようなウキウキした顔をしていた。


「私も、ちょっと気になるので、美鈴さん見てきます!」

「あ、はい」



 五十嵐さんも一緒に、どこかへ行ってしまった。



 部室には、俺と如月だけが残った。

 如月の方を見ると、ニヤッと笑ってくる。


「男同士、仲良くしよう」

「……なんで女の子がいっぱいいるのに、お前と仲良くするんだよ」


「そんなこと言わずにさ」


 良くわからないが、俺は如月からも、モテ始めたらしい……。


「とりあえず、各々大会の復習でもしようぜ。美鈴のことだから、またいきなり大会出ようとか言い出すかもしれないし」

「なるほどね。おっけー!」



 残された俺達は、各々作業を開始する。

 男二人だけの部室って、なんだか懐かしいな。


 夏なのに、半地下の涼しい部屋。

 つい先日まで壊れていた窓がやっと直ったのだ。


 この部屋の窓が壊れた所から、俺の春が始まったんだよな。

 幸せが舞い込んでくる窓なのかもな。



 それにしても、AIって難しいんだな。

 普通に質問しても、素直に答えてくれないし。

 最初はそんなこと無かったのにさ。



 そうだ。

 久しぶりに、美鈴に直接聞くんじゃなくて、サイトの方を使ってみようかな。


 美鈴が呼び寄せてくれた、YAYOIさんと五十嵐さん。

 俺は、どっちとくっつくと、幸せになれるのか。


 そんなことを大っぴらに美鈴に聞くと、美鈴はバグっちゃうからな。

 多分、すごく罵られることが目に見えてる……。



 こんな時でもないと、聞けないから聞いてみようかな。

 パソコンディスプレイを覗き込むと、なんだかご機嫌な俺が写っていた。

 昔の俺とは、別人みたいだ

 ふふ。



 ――ガッシャーーン。



 あれ?

 前にも、こんな音が聞こえたぞ。

 俺はデジャブを体験しているのだろうか。


 昔あったことが、走馬灯のように思い出される。

 これは、きっと俺の後ろにある窓が割れたんだと思う。


 修理が完了したばかりの窓なのに。

 この後、ガラスが降ってくるんだよな。



 思った通り俺の頭の上に、ガラスの破片のダイヤモンドダストが降り注いだ。

 真夏に雪を降らすのは、もういいよ。

 俺には、もう春が来てるんだ。

 二度目は、いらないよ……。



 俺の頭の上に降り注ぐガラス。

 そして、俺の顔の横を太い鉄の棒が通過して行ったかと思うと、机にあるキーボードに当たった。

 キーボードは、ぐしゃりとへこんだ。


 ……どういうことだ。



 半地下の部室。

 その天井間際にある窓のあった部分。

 そこから、声が聞こえた。


「あちゃー。窓割れちゃってるや。すいませーん。大丈夫ですか?」


 意外と可愛らしい声が降ってきた。


「怪我とかないですか?」

「……い、一応大丈夫だ」


 鉄の棒が俺に当たってたら、大怪我は避けられなかっただろう。

 かろうじて当たらなくて済んだが……。



「なら良かった。じゃあ、そっちに落ちちゃった棒を取ってもらっても良いですか?」


 さっきの謝罪が社交辞令だったみたいに、心配している声色ではなくなり、事務的な淡々とした口調になった。


 本当のところ、この子は全く俺のことを心配していないだろう。

 最初は、心配している声だと思ったんだが。



「いや、ここからじゃ渡せそうにない。ドアの方から取りに来てくれ」

「ええー、面倒くさいな……。私がそっちに行けばいいんですか? ‌待っててください」


 なんだか、心の声も漏れてるし……。

 この子は、要注意人物かもしれない。


 しばらくすると、部室のドアが開いた。

 入ってきたのは、見たことがない可愛い女の子だった。


「失礼します。私、六波羅ろくはら葵月あづきと申します。演劇部の大道具がどうも、ここの部屋に飛び込みたいって言ってたみたいで」

「いや、君が落としたか何かじゃないのかな……?」


「そうですね。悪い道具には私からも言っておきますので。私の顔に免じて許してやってください」


 そう言って笑顔を向けてくる、六波羅さん。

 初めて見たが、すごく可愛い。

 こんな可愛い子なら、俺みたいなやつが知ってても不思議じゃないんだけどな……。



 作られていない自然な笑顔。

 それが俺に向けられていると思うと、なんだか心を締め付けられる気分だ。


 大道具を渡すと、六波羅さんから笑顔が消えて、めんどくさいといった顔つきになった。


「ではでは、ごきげんよう」

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