第34話 今日も恋愛相談して下さい!(※四之宮 卯月の視点)
屋上に、YAYOIが現れた。
今日中には行動を起こすと思っていたけれども、もう来ちゃったんだ……。
早朝の夏の空の下は、既に暑くなり始めていた。
その中を、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
これで、私のAIごっこももう終わりだね。
YAYOIは、私の事を知っている。
大会でYAYOIに勝てれば、なんでも言うことを聞くって言ってたから。
私が勝ったら、あいつには私のことを黙っててもらおうと思ったけれども、それが出来なかった。
きっとYAYOIは、私の正体をバラしに来たんだ。
こんな朝早くから、ご苦労なことです。
睦月と、最後の思い出にしようと思ったけれども、それさえも叶えさせてもらえなかった。
私も、睦月と一緒。
自分から行動すれば、何かが変わると思ってたんだ。
ただの引きこもりだった私だけど。
ここまで夢中になれることは今まで無かった。
すごく楽しかった。
全部、睦月のおかげ。
そのお礼をしたかったけれども。
もう終わり。
YAYOIは、私と睦月のいるところまで、ゆっくりと歩を進める。
私は処刑台に立たされているみたいに、運命の時を待つしかない。
黙ってYAYOIが近づいてくるのを見守った。
屋上の奥までYAYOIは来ると、口を開いた。
「卯月、私の負けだ」
「……ん?」
YAYOIから予想外の一言が出てきた。
「あの大会、結果が覆ったんだ。私の解いた回答は、一部観点が不足していることが分かった。帰ってから卯月の答えを熟考したんだよ、それで私の方が間違ってることに気付いたんだ。すぐに大会本部に連絡したよ」
YAYOIが間違ってた?
それが本当だとすると……。
「よって、私のチームはペナルティを受ける。あんたの回答は完璧。だからあんたのチームが逆転優勝したってわけ」
「そ、そうなの……?」
始めは悔しそうに見えたYAYOIだったが、穏やかに笑っていた。
「あんたの事だから、早まってこうするだろって思ってたよ。勝負は、あんたの勝ちだから。バラさないよ、安心しな」
それを聞くと、急に力が抜けてしまった。
私は、その場に座り込んでしまった。
「……良かった」
バラされなくて済むんだ。
良かった。
安心して睦月の方を見ると、睦月は何が何だかわからないような顔をしていた。
私は、ずいぶんと取り乱しちゃっていたけれど、睦月は気づいてないのかな?
気付いてないなら、それはそれで鈍感すぎるけど……。
睦月は、騙されやすくて、人が良いんだから。
まったく……。
何で、私はこんな奴を好きになっちゃったんだろうな……。
YAYOIは、夏の空のように爽やかに笑って言った。
「卯月、邪魔したな。最高のパフォーマンスを見せてくれてありがとう。困ったことがあれば何でも協力するから言ってくれ! いつでも助けるからな」
そう言って、YAYOIは屋上階段の方へと戻って行った。
「そうそう、恋愛相談なんてのも、私で良ければ聞くからね!」
「……お、お前に恋愛相談なんて、するかーー!」
YAYOIは笑って、階段へと行ってしまい、また、睦月と二人きりの屋上になった。
夏の暑い日差しは、段々と熱を増していくのが分かった。
今日は、今まで以上に暑くなりそう。
呆然と立ち尽くす睦月。
私は、睦月に手を取ってもらって立ち上がる。
もう秘密をバラす必要は無くなったけれども、せっかくの二人きりだから、睦月に言っておこう。
「この世には、五十嵐さんよりも良い女がいるから。それがわかるまでは、私の言うことを聞いてね」
いつか、打ち明けられるタイミングになったら言うよ。
私はAIじゃないって。
睦月は、不思議そうな顔をしてこちらを見てきた。
「……あれ? キスの仕方とかを教えてもらえるんじゃ?」
こいつは、やっぱりおバカだな。
純粋で可愛いやつ……。
大会頑張ってくれたから、ご褒美をあげてもいいか。
「それじゃあ、睦月、目をつぶって!」
「は、はい!」
睦月の顔。
整った顔つきで、まつ毛が少し長い。
清潔そうに整えられた髪型。
意外とカッコいい顔してるんだよね。
私が、入学式で一目惚れするのも無理ないな。
私の好きな顔が、キスを待ってる……。
私は、唇を睦月の顔へと寄せていく。
睦月の唇を横切って。
睦月のほっぺたに鼻息を吹きかけながら、そこも通り過ぎて。
耳元まで唇を寄せる。
「私のこと好きになってくれるまで、本当のキスはお預けです」
睦月の耳元でそう囁きながら、耳たぶにキスをした。
昨日、AIに聞いておいたんだ。
睦月の弱い部分。
睦月は、耳が弱いんだって。
ふふ。
「わっ! 何するんだよ!」
夏の日差しに照らされて。
睦月だけじゃなくて、私まで顔が熱くなるのを感じた。
……やっぱり、私は睦月が好きだ。
この関係を壊したくない。
そのためなら、何でもしよう。
これからもずっと、楽しく過ごせるように。
プライドとか、そんなものはもういらない。
睦月がいれば、それだけでいい。
「睦月!」
恥ずかしさが顔に出ないように、精一杯我慢しながら言う。
「ツンデレなAIチャットに、今日も恋愛相談して下さい!」
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いつも、御愛読の程ありがとうございます。(*_ _)
ここで、四章『プログラミング大会編(後編)』が終了となります。
美鈴ちゃんは、無事に睦月君との関係性を守れたのでした。
表紙にしているシーンの回収でございました。
見ていない方は、是非ともどうぞ。
以下に近況ノートへのリンクをつけております。
まだもう少し物語は続きますので、どうぞ見守り下さいませ。(*_ _)
それでは、いつものお願いです。
こちらは『第9回カクヨムWeb小説コンテスト ラブコメ部門』参加作品になっております。
一次選考は読者選考となっておりまして、もし楽しかったと思って頂けましたら、フォローや、☆評価を頂けましたら幸いです。
こちらの近況ノートにイメージ画像を用意しております。
合わせてお楽しみくださいませ。(*_ _)
https://kakuyomu.jp/users/tahoshi/news/16817330667743912450
※画像は、四之宮 卯月こと、美鈴ちゃんになります。
タイトルシーンの回収でございました。(*_ _)
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