第23話 暑い廊下!(※四之宮 卯月の視点)

私、どうしちゃったんだろう。

なんだか、頭が上手く回らない。


睦月のこと考えると、おかしくなっちゃうのかな。

こんな気分初めてだよ……。



私は、睦月に手を引かれてパソコン部の部室を出た。

そのまま、手を引かれて廊下を歩く。

日も当たらなくて、冷房が効いてる廊下なのにな。


涼しいはずなんだけれども、顔は熱い気がする。

冷房壊れてるのかな?

夏の学校って、やっぱり暑いんだよ。


睦月が振り向いて、私に聞いてくる。


「美鈴、大丈夫か」

「私は、大丈夫だよ」


大丈夫って思うもん。

おかしくなる理由が無いから。


しばらく手を引いて歩いていた睦月は、ふいに立ち止まって、私の額に手を当ててきた。

私、どうもしてないんだけどな。


「やっぱり顔が熱いぞ。顔が火照ってる気がするぞ?」


何でだろうな。

何でも無いのに……。


「AIっていうのも、大変なんだな。きっと熱に弱いんだろ? ‌ちょっとオーバーヒートしてるんじゃないか? ‌CPUとかが、熱暴走でもしてるんじゃないかな?」



そんなこと無いけど。

私、人間だし。


何かおかしかったのかな。

睦月は手の甲で、私の頬を触ったと思ったら、そのまま流れるようにして、その手を首筋へと動かしていった。

そして、顎まで手を進ませると、顎をクイっと上に向けた。


何この状況……。

これって、まるでキスでもするような格好……。


何考えてるの、睦月。

そんなの、私が求めてるとでも思ってるの?

バカじゃない。

そんなこと……。


真正面から睦月の顔が見える。

とても綺麗な目をしてる。


睦月の目を見ていると、誠実さが伝わってくる気がする。

入学式で見た時も、ちょうどこんな目をしていたんだよ、睦月。


あの時から、変わってないな。



顎を上げてたと思ったら、今度は下顎だけ下げてきた。

睦月は、私の口の中を覗いてくる。


なになに、なんなの……。

なんか恥ずかしいよ……。

いきなり口の中を見るなんて。

何考えてるの……。


私の口の中を覗きながら、睦月が言ってくる。


「すごい精巧につくられているんだな。本当の人間みたいだよ。すごく興味深い」


……うーん。

こいつって、真面目というか。

どこか抜けてるんだよね。


こんなAIがいるわけないじゃん。

私が人間だってわかるでしょ。

会ったことあるのにさ。

早く、四之宮卯月だって気づけよ……。


「……ばか」

「へっ? ‌え、俺なんかイケナイことしてた? ‌あ、触り過ぎちゃったか」


私から伝えるのは、負けた気がするし。

気付くまで、そのままにしておこう。

鈍感な睦月。


「あぁ、ごめんごめん。話を変えよう」


そう言うと、睦月は私から手を離した。


「大会に出ようっていう作戦は良かったと思うんだ。やっぱり団結力が上がると思って」



そうそう。

私も、それをAIチャットに聞いた時、そう思った。


「お前が、五十嵐さんにやってるように、俺も手取り足取り教えるのが良いってことだろ?」


いや、そうじゃない。

私は、睦月と五十嵐皐月が近づくのが嫌で……。


あれ……?

私は、何を思ってるんだ。

AIがさっき言っていたことに、誘導されている気がする。

私が睦月を好きだなんてことは無い。


……はず。


自分が一番、自分を分かっているはず……。



「やりたいことはわかったからさ、お前は少し休んでいた方が良いかも知れないぞ」


廊下の端まで行くと、窓がある。

外は今日も暑そうに晴れていた。

窓の外を見上げて、睦月は言う。


「美鈴の作戦通り、俺が上手くやってみるよ。だから美鈴は、少し休んでて欲しい」


「……ダメ」



「えっ? ‌どうして? ‌キーボードくらい俺でも教えられると思うぞ?」

「……全然ダメ。睦月のスキルは足りないよ。だから、私が睦月に教える。二人きりで教える! ‌だから、今から睦月の家に行く!」


……私は何を言ってるんだろ。

本当に私が壊れちゃったのかな。


「けど、如月と五十嵐さんが待ってるだろ。さすがにそれは可哀想だし」

「睦月は、私の言うこと聞けないの? ‌私よりも五十嵐さんを選ぶの?‌」


……我ながら、厄介なこと言ってるな。

……何言ってるんだろ。


睦月は、私の両肩を掴んで、真面目な顔をする。


「もちろん、俺は美鈴を誰よりも信じてる」


この顔。

私は、睦月のこの顔が好きなのかもしれない。


やっぱり、この廊下は、暑いよ……。



「そうだとしたら、このまま、私を連れて行って。睦月の家に連れてって」

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