第22話 美鈴の暴走!

 美鈴は、五十嵐さんにキーボードの使い方を教えている。

 椅子に座っている五十嵐さんの後ろから、五十嵐さんを抱き込むようにして、手を誘導している。


「ここは、こういう風に手を使います」

「こうですか?」


 何やら、美鈴によるパソコン初心者講座をしているのだ。

 そんな体勢なんて、教えにくいだろうって思うのだけれども。


「まずは、母音の位置を覚えると良いですよ。母音」


 美鈴は妙にセクシーな発音をさせながら、何故かこちらを見てくる。

 こうやって教えろっていうことなのか?


 俺に向けて、こう教えろと表してくれているのかもしれない。

 美鈴のやっていることには、全てに意味があるからな。


 俺は、美鈴をじっくりと眺める。


「左手の小指でA、左手の中指でEを押すんだよ」


 美鈴は、五十嵐さんの左手を握って、誘導する。

 手を優しく包んで、一緒にAとEを押している。



「……ところで、睦月。AとEとは、どちらの方が需要があると思う?」


 唐突に美鈴はこちらに対して質問をしてきた。

 なんだか難しい質問だな。

 俺には、答えが分からないぞ……。


「……ええっと。わからないけれど、Aなのかな?」


 俺が適当に答えると、美鈴は満足そうにニコっと微笑んだ。


「御明答です。Aの方が母音として、多く使われています。それは英語でも、日本語でも同じ。だからAの方が需要がある」


 ふむふむ。

 美鈴による雑学講座も始まる感じなんだな?

 後で使うから、ちゃんと覚えておかないとなのかな。

 とりあえず、Aの方が大事ってことだな。


「補足だけれども、や行について考えてみても、Aの方がEより需要があるのは明確なんだ。や行は、や、ゆ、よだけ。今の時代で、旧字のゑは使われることも無いので、選ばれる母音とし、1文字分少ないわけです」



 うんうん。

 確かにそうだな。


「や行は、『小書き文字』としても使われます。

『しゃ』とかで用いる小さい『や』の字。そういう見方をしても、やはりAが需要があるのです」


 うん。

 説明している内容には、納得するけれども。

 やけにAの重要性を推してくるんだな、美鈴は……。

 そっちの理由は、よく分からないんだが……。


 美鈴は姿勢を正して、こちらを向いた。

 そして、五十嵐さんの肩をトントンと叩いた。


「五十嵐さん、ちょっと立ってみて」

「はい? ‌キーボードの使い方を教えてくれるんじゃないの?」


「良いから良いから」


 美鈴は、五十嵐さんを立たせて、隣同士て一緒に並ぶ。


「覚えて。そして納得して、睦月。Eよりも、Aの方が需要があるのです!」



 ニコッと笑顔を見せる美鈴。

 このAIは、何が言いたいのだろうか……。


 同じくらい背が低い二人。

 片方は、グラマラスで、凹凸がハッキリした体系の五十嵐さん。

 片方は、子供みたいなノッペリした体系の美鈴。


 並ぶと一目瞭然だな。



 立たされた五十嵐さんが、口を開いた。


「……えっと、美鈴さんでしたっけ? ‌よくわからないですけれども、もしかして胸の大きさの話をしていましたか? ‌それは、人の好みによると思いますが……」



 美鈴は、俺から目を逸らして、ほんのり頬を赤くすると、後ろを向いてしまった。


 えっと。そういうことなのか……?

 美鈴は、ただ単に胸の大きさの話をしていたのか?


 美鈴は、後ろを向きながら、喋りだした。


「……いや、Aカップとか、そういうのは、私は気にしてない。けれども、統計的に見ても、Aカップの方が偉人が多かったりするし。生物学的に考えてもAの方が優位なんだよ。無駄な栄養を使用しないAカップの方が、頭に栄養がいくから、頭が良くなってるし。あとね、あとね……」



 ……うーん。

 最近のAIはやっぱりよくわからない。

 やっぱりCPUが熱暴走でもしているのだろうか。


 美鈴がおかしくなる時って、顔の色に出るんだよな。

 さっき赤くなってたから、今はおかしい状態だな。

 こういう時どうすればいいんだろう。

 俺が心配してる最中にも、美鈴は続ける。


「睦月は、絶対にAカップの方を好きになるべきで。Eカップもあるような可愛い女子が現れても、それは敵であって。その敵に心を許しちゃいけないわけで。付き合っちゃダメで……」


 なんだか壊れたロボットという感じで、美鈴はその場でくるくる回りながら、意味不明なことを言い出していた。


 しょうがない……。

 俺は、美鈴に寄って行って、頭を抑えてやる。


「美鈴。一回休もう」

「……睦月は、どっちが好き、なの?」


 潤んだ目で、こちらを向いてくる美鈴。


 ……これは、もうだめだな。

 オーバーヒートして、冷却装置も限界なのか、目の部分から水が出てきそうだよ。


 俺は、美鈴の手を掴んで、一旦部屋を出る。


「五十嵐さん。まずは、基本的な部分を如月に教えてもらってて下さい。後は任せた、如月!」

「えーー。私、如月さんは、嫌ですよー。睦月君に教えてもらいたいですよー」

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