第15話 最高の対応

 俺は、地べたに正座して、頭を下げる。

 それ以外に、この場を乗り切る策が思いつかなかった。


「はっはは。みっともないな。彼女の前で」

「そんなだから、彼女を取られちゃうんだよ」


 俺を置き去りにして、美鈴の方へと寄って行こうとした。


「お、おい。ちょっと待ってくれよ……」

「はっ? お前は、そのまま土下座しておけよ」


 ……。


 ……我ながら無様だな。

 俺は、何もできずに、頭を下げ続けた。


「ははは。じゃあ、君は俺たちと一緒に行こうか」

「ほら、いくぞ!」


 美鈴は、何も答えないでいるようだった。



「……ちょっと、そこの君たち、どうしたんだい」


 俺が何も出来ないでいると、後ろから声が聞こえてきた。

 この期に及んで、誰が来たっていうんだ。


 美鈴はサッカー部を無視して、新しく駆け寄ってきた人に受け答えしているようだった。


「この人達が、そこの女の子に暴力をふるっていました。それで、私とそこに座ってる子にも暴力を振ろうとしてるところです」

「なるほど。確かに、そういう風に見えるな。君たち、ちょっといいかい?」



「……やべ。逃げろ!」

「おい! 待て待て!」


 そんなサッカー部の声が聞こえたかと思うと、俺の目の前にあった足が一斉に離れていった。

 そして、どんどんと遠くへと行ってしまった。


 どういうことだ?



「君も、大丈夫かい? 立ち上がれる?」


 誰だろう。

 サッカー部を追い払ってくれたってことか?


 俺には、どうすることも出来なかった状況。

 手を差し出してきた人が、俺には勇者に思えた。

 カッコいい。


 明るい日差しで、姿は見えなかったけれど、その人の手を取って立ち上がる。


「良かった、怪我はないみたいだね」


 手を取ってくれたのは、警察官だった。



「あ、ありがとうございます」

「うーん。君は、大丈夫そうだな!」


 よかった。助かった……。


 けど、俺は何も出来なかった。

 こんな情けない姿をさらしてしまって、美鈴の方を直視することができない……。


 美鈴は、警察官に受け答えしている。


「先ほど、暴力をふるっていたのは、こよみ高校のサッカ一部。名前は……」


 美鈴は、いつでも冷静だな。

 ロボットだったら、当たり前かもしれないけれど、すごいな。


 俺は美鈴の対応を見てるしかなかった。

 さっきまでいたサッカー部のフルネームを全て伝え、プラスで学年、クラスといった情報も出していく。


 美鈴は、どんなデータベースを持ってるんだよ。

 AIには、個人情報が全部筒抜けみたいなんだな……。



「どうも、何から何まで、詳しくありがとう。最近、この辺りで暴力を振るわれたり、乱暴されたっていう被害届が多かったんだよ。捜査の協力感謝します」

「どういたしまして。お役に立てまして光栄です」


 警察官は、優しい笑顔をこちらに向けてから一礼すると、サッカー部を追って行ったであろう、もう一人の警察官と連絡を取り合っているようだった。



 美鈴は俺と目が合うと、にこりと笑っていた。

 そのあとすぐには、俺からしゃべりかけることは出来ず、何事も無かったようにアイスを買って日陰へと移動した。


「睦月、なんで落ち込んでるの? 良い判断をしたと思いますよ」

「いや、そんなことないだろ……。俺には何もできないんだなって感じただけだよ。結局警察の人みたいに力が無いと」


 俺がそう言うと、美鈴は笑って答えてくれた。


「あの方法が、一番穏便に解決できたと思いますよ。誰も怪我しないで、ベストな解決方法です。私じゃなくて、あなたのポジションでしかできない、もっとも効果的な方法です」


 美鈴は、嬉しそうにしながらアイスを一口食べて、話を続けた。


「世の中、力だけが全てじゃないですよ。困難に立ち向かう勇気というものが、私は一番大事だと思っています。知恵は、私が持ってるので大丈夫です。あなたの勇気と、私の知恵で、力を倒した形です」


 美鈴のいう事は、半分も理解できないけれども。

 あの対応で、良かったっていうことなのか?


「じゃあ、AIによる採点だと、さっきの俺はどのくらいの点数だったんだ……? ぎりぎり赤点は免れたのかな……?」


「私からしたら、最高点でしたよ。満点合格です」


 ……それなら、良かった。

 飛び込んでみた甲斐があった。


「このアイス、冷たくて美味しいですね」


 今日一番の笑顔を見せてくる、美鈴。



 何が良いかなんて、見る人次第なのかも知れないな。


 むしろ俺が間違っていることなんて、多いわけだし。

 俺自身がダメだって思い込んでいただけなのかもな。


 美鈴の笑顔が見れたから、大成功ってことで良いかもな。



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 いつも、御愛読の程ありがとうございます。(*_ _)

 ここで、二章『初デート編』が終了となります。


 五十嵐いがらし皐月さつきちゃん、

 四之宮しのみや卯月うづきちゃんあらため美鈴ちゃん。

 二人との初デート編という所でございました。



 三章では、この二人も絡み合う『プログラミング大会編(前編)』がスタートします。

 ぜひぜひ、引き続きお楽しみいただけると幸いです。(*_ _)



 そして、こちらは『第9回カクヨムWeb小説コンテスト ラブコメ部門』参加作品になっております。

 一次選考は読者選考となっておりまして、もし楽しかったと思って頂けましたら、フォローや、☆評価を頂けましたら幸いです。


 こちらの近況ノートにイメージ画像を用意しております。

 合わせてお楽しみくださいませ。(*_ _)


 https://kakuyomu.jp/users/tahoshi/news/16817330667743912450

 ※画像は、四之宮 卯月こと、美鈴ちゃんになります。



 後に控える『プログラミング大会編(後編)』での締めの、屋上シーンの一コマになる予定です。

 ご期待の程、よろしくお願いいたします。(*_ _)


 五章に入りましたら、画像切り替えを検討中です。

 そちらもお楽しみいただけると幸いです。

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