3章 プログラミング大会編(前編)

第16話 パソコン部!

「おはようー! 朝だよー! 睦月起きろ一」


 可愛い声が、俺の部屋に響く。

 変な目覚まし時計だと、親には思われていることだろう。

 目覚ましを消すには、スマホをタップしても消えない。

 きちんと、声で答えないといけないのだ。


「おはよう、美鈴」


 そうすると、スマホの中の美少女は、満足そうな顔をしてくれる。

 スマホにAIを入れてから、毎日起こしてくれるのだ。


 そういうプログラムだと言われれば、当たり前かもしれないが。

 俺は、結構気に入ってる。


「今日は、何があるか楽しみだね!」

「そ、そうだな」


 なんだか、美鈴は日によって、喜怒哀楽のギャップが激しいんだよな。


「よーし、今日も元気に行ってみよー!」

「お、おーう……」



 ◇



 通学時は、美鈴としょうもない話をしながら登校。

 一人言と思われるけれど、意外と楽しいんだよな、この時間。


 そんなことを思いながら学校に着くと、学校ではサッカー部の事がもちきりだった。



 暴力沙汰があったということで、顧問の先生やらが慌ただしく動いていた。

 それを知ってか、五十嵐さんは元気が無いように見えた。


 俺が教室に行くと、自席に座って、ずっと下を向いていた。

 もしかしなくても、俺と美鈴のせいでこうなったんだよな。

 もうちょっと考えてから行動すべきだったかもしれない……。


 片耳に付けているイヤホンから美鈴の声が聞こえる。


「以前から常習的にやっていたらしいから、自業自得だよ。いつかはこうなる運命だったよ」


 相変わらず、AIってすごいと思うよ。

 俺の言いたいことを全部分かってるみたいだな。



 ◇



 その日は、五十嵐さんを見かけるたびに、声をかけようと思ったが、出来なかった。

 五十嵐さんに掛ける言葉が見つからない。

 あんなに毎日、部活を頑張っていたのに。

 こんな時どうすればいいのか。

 昼休みになり、この機会しかないかと思っても、名案が思い浮かばず、俺はうじうじとしていた。



 悩んでいると、大きな体系のニコニコ笑顔な眼鏡野郎がやってきた。


「いやー。昨日の事件、睦月が絡んでいたのか」


 能天気に如月が言う。


「そうだよ。駅前まで行ったら、サッカー部がいて」

「そうそう、そんな話を詳しく聞きたいな。一緒に昼飯でも食いながらさ」


 如月は、今日は俺と昼ごはんを食べようと言って、誘ってきた。

 一旦、五十嵐さんに声をかけるのは諦めて、俺は如月と一緒に部室へと向かった。


「それよりも、美鈴ちゃんが人間になって表れたっていうことが驚きだよ。そんなことが出来るのかって」

「それな。俺も思ったけど、PCやスマホから聞こえてくる声と同じだったし。俺の出してた情報も全部知ってるみたいだったし」


「それも、超絶美少女っていうじゃないか。どんな子だったの?ちゃんと罵られた?」


「いや、お前は。何を期待してるんだよ。全く」



 そんな話をしながらパソコン部の部室の扉を開けると、そこに美鈴がいた。


「こんにちは。睦月に、如月。今日は昼から来てみたよ」


 やっぱり昨日のことは夢じゃないんだって、再認識するな。

 いつもは暗い部室なのに、一人美少女がいるだけで、全然雰囲気が変わる。

 まるで、花が咲いたみたいだ。


「え、えーーー! これが美鈴ちゃん!? こ、こ、こんにちは。オイラは如月と言います」


 笑顔だった美鈴は、笑顔を崩さずに答える。


「うん。知ってるよ、


 痛烈な言葉のパンチに、如月は今にも昇天しそうな、大満足な顔をしていた。

 俺には理解できない世界だ……。


「それにしても、なんで美鈴は学校に来るようになったんだ?」

「たまには、いいかなって思ってね。睦月もいるしさ」


 少し頬を赤く染めながら言ってくる美鈴。

 やっぱりこの部屋は、暑いらしい。

 美鈴のCPUは少し暴走気味のようだ。


「よ、よくわからないけれど、君たち二人は仲が良さそうだね」


 如月から見ればそうなのかも知れないが、そういうプログラムだからな一としか、俺は思えないけれど。


 俺と如月は美鈴に近づいて行き、美鈴を挟むように座ろうとした。

 せっかくのゲストだから真ん中にしてみようと。


 俺たちが近づくと、美鈴は席を移動して、如月から離れるように、俺に近づいて来た。

 そして、相変わらず可愛い美鈴スマイルを如月へと送る。


 ……まぁ、良いか。

 こういう対応が、如月は好きみたいだし。


 AIの計算能力によって、みんなの願いを、ちょうどいい具合にちゃんと叶えてくれるんだな。

 最適解っていうやつを瞬時に計算して。

 すごい性能だよな。


 席が決まったので、ご飯を食べようと思って弁当を出したところで、部室をノックする音が聞こえた。



 ――コンコン。


「パソコン部に、誰だろう。どうぞ一空いてますよー」


 ドアが開くと、そこには五十嵐さんがいた。

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