第17話 突然の入部!
開けられたパソコン部の部室のドア。
そこに立っていたのは、五十嵐さん。
いつもと同じ、フローラルな香りを漂わせながら部室へと入ってきた。
今日は、ずっと落ち込んだ顔だったのに、顔つきが違って見えた。
「パソコン部の皆さん、こんにちは」
「ど、どうしたの? こんなところで?」
「私ですね。サッカ一部のマネージャーを辞めちゃいました!」
「「ええええ!!」」
五十嵐さんは、無理やり笑っているような顔で続けた。
「不祥事が嫌だったとか、裏切られた気持ちだったとか。色々ありますけれども。今日から、パソコン部のマネージャーにしてください!」
勢いよく頭を下げる五十嵐さん。
部室の中に、ふわっと五十嵐さんの匂いが振りまかれた。
「えっと……、そんな制度、無いんだけれども……」
五十嵐さんは、遠慮せず俺たちの元へ歩みを進めながら話を続ける。
「本当に悔しい気持ちですよ。高校に入学してから数カ月でしたけれども、一生懸命やってたのにって。それと同時に、他のマネージャの子も、先輩マネージャ達も、みんなそれ目的だったって分かっちゃって……」
具体的に、それの内容は聞かなかったけれども、何を指しているのかは分かった。
「私は、何かに夢中になっている人を応援したいなって思ってるんです。もちろん、サッカーが好きだったので、そのマネージャになったんですけれども」
五十嵐さんは、俺の方を向いて笑った。
「けど、私の知らない世界で、サッカー部よりも一生懸命に頑張ってる人がいるって思ったら、応援したくなっちゃいました」
まるで、俺に言ってるみたいに。
「尻軽女とでも、呼んで下さって結構です。高校生活は短いので、少しも無駄にしたくないんです」
そう言われても、五十嵐さんが尻軽じゃないって知ってる。
サッカー部の連中の言葉を聞いて分かったけれども、五十嵐さんはサッカー部のマネージャーで、一人だけ純潔を守り抜いたような子だから。
高校生活を無駄にしたくないってサッカー部を辞めるところまでは納得できるのだが。
無駄にしないために、この部活に入ることを選んだってことなのか?
その辺りが、良く分からなかったりするのだが……。
五十嵐さんは、笑いながら俺に近づいてくると、近くの机から椅子を持ってきて俺と美鈴の間に入ってきた。
「私も、この部活に混ぜてください。一緒に部活頑張りましょー」
五十嵐さんは、パソコン部を楽しそうって思ってくれたってことなのか?
……あ! そうか。なるほど。
これは、美鈴の計算通りに動いているっていうことか。
五十嵐さんとの、登下校でパソコン部を少しアピールしつつ、サッカー部の連中の不祥事を暴いたことで、こうなるっていうことが分かっていたってことか。
AIの計算能力って、未来予知みたいなものだな。
かろうじて、理解できたぜ、美鈴。
そうとわかれば、美鈴に感謝しないと。
そう思って美鈴の方を見ると、なんだか五十嵐さんを睨んでいるようだった。
眉間の皺がどんどん深くなり、下顎が段々と前へと出てきている。
ヤンキーが、威嚇する時のあれだ。
……うーん。これは、どういうことだ?
……美鈴が仕組んだことなんじゃないのか?
美鈴はその顔のまま喋り出した。
「
美鈴は、いきなり呪文のように唱え始めた。
AIが誤作動でも、しだしたのか。
五十嵐さんは、驚いた顔をしたが、段々と顔色が曇っていった。
「えっと……。この人、何ですか……? 怖いですよ」
「私は、あなたを敵と認識しました。尻軽女」
なんだか、美鈴の口が悪いし。
AIチャットの感情って、どうなってるんだよ。
俺と、五十嵐さんをくっつけようっていう計算でこうなったんじゃなかったのか?
よくわからないぞ……。
これもまた、計算のうちなのか……?
五十嵐さんと美鈴が睨みあっているところで、チャイムが鳴った。
「チャ、チャイムなっちゃったな。教室に戻らないとだな」
良くわからない争いが勃発しそうになったが、チャイムに救われた。
俺には、あの中に飛び込む勇気はなさそうだ。
美鈴は眉間にしわを寄せながら、その場を動こうとはせず、手を振って見送ってくれた。
あいつは、AIだから、授業に出れないもんな。
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