第18話 魔法の鏡!(※四之宮 卯月の視点)

 暇だったから。

 ただの気まぐれだけど。

 睦月を手伝うのも楽しいのかもなって。


 実際に、睦月をからかうの、ちょっと楽しかったし。



 けど、予想外に五十嵐皐月がパソコン部に来ちゃって。

 あいつに負けるのは嫌だ。


 あっちは、私の事なんか気づいていないだろうけれども。

 私は、小学校から私はあの子を見ている。


 五十嵐皐月は、いつでもクラスの人気者だった。

 容姿が良いし、性格も良いから。

 クラスの人からは、ずっとちやほやされてる。


 皐月自体に罪は無いっていうのは、わかっているけれども。

 皐月の前でだけ、良い顔する奴らが、嫌いだった。


 男子はみんな、皐月を前にすると顔が変わる。

 それで、どうにか気に入られようと、口から出まかせを言ったりもして。

 そう言うのを見ているのが嫌いだった。



 クラスのみんなを、そうさせてしまう。

 皐月は、生まれながらにして、そう言う星の元に生まれたんだろうな。

 正直言って、すごく羨ましかった。


 私も皐月が好きだったけど、その一方ですごく嫉妬心が湧いていた。


 人間の価値って、顔だけで決まるのかなって。

 声だけで決まるのかなって。

 外見だけで決まるのかなって思っちゃう。


 そんな風に考えちゃう、私自身も嫌いだった。

 本当は、皐月のことも好きなんだけど、素直になれない。



 私がAIチャットを生み出した理由の一つが、自分の気持ちを知ることだったりするんだよね。

 悩んだ時に相談に乗ってくれるような人がいればなって思ったんだ。

 けど、私には友達なんていないし。


 私が全幅の信頼をおけるような人。

 もはや、人じゃなくても良かった。


 それで生み出したのが、AIチャットだった。


 自分の気持ちがわからない時は、自分で作ったAIチャットに質問してみる。


 AIチャットは、私の気持ちに左右されること無く、冷静に答えてくれる。

 私も含めて、人間なんて自分の気持ちに左右され過ぎるんだよ。

 感情をオフにできるスイッチがあれば、欲しいな。



 私は、みんながいなくなったパソコン部の部屋で、AIチャットに質問をする。



「今の私の気持ちを教えて下さい。AIチャットさん」



 そう入力すると、AIチャットから回答が返ってくる。


「四之宮卯月さん。それは、恋というものだと思います」


 AIチャットの回答。

 アイツらがカスタマイズしたからだけど、私の声で返ってくる。

 何だか不思議な気分。

 本当に、自分と話しているみたいだよ。



「おい。恋ってなんだよ。私が誰に恋したって言うんだよ」

「卯月さん。あなたは、睦月君に恋をしています」



「そんなわけないだろ。私は暇だから、ただあいつを手伝おうってしてただけで」

「自分の気持ちに素直になれないのが、あなたですよ。頭の良いあなたには、本当は分かっているはずです」


 気持ちが落ち着いている時の私の声に諭される。

 悔しいけど、なんか説得されちゃうんだよな。

 ……恋、してるのか。


「……それであれば、私はどうすれば良いと思うんだ」

「あなたは、睦月君と結ばれたいと思っています。そうするためには、苦楽を共にするのが一番の方法です」


「わかったよ。その前提で進めるからさ。具体的な方法を示してくれ」

「睦月君の気持ちを、五十嵐皐月さんにではなく、四之宮卯月さんに傾けるためには、卯月さんを頼りにしてくれる状況を作る」


 チャットは、長文を続けて回答してくる。

 自分の声に若干苛立ちながらも、黙って聞く。


「あなたが望むように、あなた自身ので皐月さんに勝つための方法です。それは、チーム対抗でやっているプログラムの大会に出ることです」


 ふむふむ。

 自分で作っておいてなんだが、これって白雪姫に出てくる、魔法の鏡みたいだよな。


 何でもお見通しって感じがして。

 それでいて、的確なアドバイスなんだろうな。

 私は、プログラムの腕だけは、自分を信じている。


 まだ情報が足りないのか、私の気持ちの部分以外は、まっとうな答えなきがする。

 まぁ。何を信じるかは、結局自分次第だけどな。


 私はどうすべきか考えていると、AIチャットは言葉を返してきた。


「今までの生活は、つまらないって思っていたでしょ? ‌睦月君のように、新しい世界に飛び込んでみることをオススメします」


 ……おせっかいだな。

 こんなもの、誰が作り出したんだよ。

 親の顔が見てみたいよ。まったく。


「青春って短いんだよ? ‌迷ってる暇があったら、さっさと旅立ちなさい」


 ……煽ってくるスタイルは、私に似たんだろうな。


「ほらほら? ‌やることは分かってるでしょ?」


 自分で決めるって言ってるのに。

 画面の中の私は、二コニコ笑って煽ってくるし。


 そうすれば、私が動くと思ってるんだろうな。

 ……その通りだよ。


 私の進むべき道は、私も分かってるよ。


 善は急げだな。


 私は、睦月にAIチャットサイト越しに、連絡する。

 授業中でも律儀に聞いてくれるんだよな、睦月。

 そういうところが好きなのかも知れないな。


「睦月、聞こえる? ‌授業中だって分かってるけどさ、聞いてよ。今月末に予定されているプログラミングの大会に出るよ!」


 こういう時、もちろん返事は返ってこない。

 授業中だから、答えられる訳も無いんだよね。


 ふふ。

 けどなぁ、今すぐ答えて欲しくなるんだよね。


 ちょっと、からかってみようかな?


「今すぐ、返事しないと、美鈴は爆発します」「ええええ!」


 ふふふ。慌ててる。

 睦月とのおしゃべりは、やっぱり楽しいな。

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