第14話 詰め寄るサッカー部

「やめろ、美鈴に手を出すな」


 喉から絞り出した声でそう言うが、全然迫力が出ない。

 そりゃあ、俺にとっては、サッカー部の連中は怖いよ。

 人数も違うし。体格だって違うし。


「こんなひょろいのが、お前の彼氏なのか?」

「あはは。ダサいだろ。変な抵抗してないで、俺たちと遊ぼうぜ」


 美鈴は、サッカー部の言葉に反応しなかった。

 ……俺が、なんとか追い払えってことだな。


「……おい、お前ら、こんなところで油売ってないで、サッカーの練習でもしろよ。もうすぐ大会だろ?」


 サッカー部は、顔を見合わせると、笑っていた。


「あははは。何を言うかと思ったら。笑わせてくれるぜ」

「サッカーなんて、遊びだろ。あれは、女の子達、マネージャ達にちやほやされに行くところ」

「出会い系と一緒だ。サッカー部っていう肩書きが着くだけで、女は寄ってくるんだぜ?」


「最近、一年のマネージャーの影響を受けちゃってさ。大会にマジになっちゃってるし、意外とガード固くなったからここでナンパ中ってわけ」


 ……そんな。

 五十嵐さんは、毎日あんなに頑張って。


 あんなに早く起きて、毎日朝練してるって言ってたのに。

 窓割ったときだって、割った本人じゃなくて、代わりに自分が謝るって率先して来てくれて。

 サッカー部の事を、本気で考えてくれてるのに。


 俺は腹立ちが倍増した。


「お前ら、五十嵐さんの気持ち、考えたことあるのかよ!」

「んあ? あぁー。一年の可愛いマネージャーの事か? アイツ中々やらせてくれないんだよな」


 ……悔しい。

 腹が立ったところで、俺には何もできない。

 ただただ、握った拳に汗をかくばかりだった。


 俺は、いつもそうだ。

 憧れだけじゃ、何も変われない。

 外に飛び出したところで、俺は何も変わってないんだ。


 後ろから、美鈴の優しい声が聞こえた。


「君は、もっと頭を使えるはずだ。力だけがすべてじゃない。冷静になれ」


 ここに来て、そんな抽象的なアドバイスなのか。

 いつでも考えろと。

 具体的に、どうすればいいんだよ。

 AIさんは、端的に答えて欲しいのだが。


 どうしよう……。

 どうしたらいいんだ?


 後ろから美鈴がサッカー部に問いかけた。


「あなたたちのサッカー部に対する気持ちは、それだけですか?」

「は? そうに決まってるだろ。こんな暑い中、練習できるかって」


「例えば、グラウンドにマネージャが待っていても?」

「そうだよ。まぁ、やらせてくれるっていうなら、考えなくもないがな」


「「あはははは」」


 みんなで笑う、サッカー部。

 本当に、くそ野郎達だな……。


「お前みたいな、気の強いやつも良いかもな。こいつは、殴ってでも連れていくか」

「変にケンカを売らずに、黙っていた方が幸せだったのにな」


 そう言って、俺を横へ突き飛ばした。

 軽々と俺は、飛ばされてサッカー部は美鈴へ詰め寄っていった。


 ……っく。俺にできることなんて。

 ……こいつらを倒せたら、俺は今頃。


 なにも出来ないけれども。

 俺は起き上がって、美鈴の前に割って入った。


「止めてくれ!」

「は? お前はもう良いよ、何だお前しつこいな」



 ……俺に、捨てるプライドなんてない。


 俺は、その場で地面に膝をついた。

 そして、頭を地面につけて謝った。



「……申し訳ございませんでした」


 俺にできることはこれくらいしか無い。

 恥もプライドも無いんだ。


 どうにか美鈴を助けたいと、そう思う気持ちだけ。

 いつも俺だったら見捨てて逃げてたと思う。


 けど……。



「バカじゃないか? そんなことで俺たちが止めるとでも思ってるのか?」

「まぁ、靴でも舐めてもらったら考えないでもないけどな」


 そう言って、サッカー部は足を差し出してくる。


 こんな事するなんて、いつの時代だって思うよ。

 まったく。


 けど、実際にこういう場面に自分が立つと、靴を舐めるしかない気がする。


 美鈴は、黙って俺を見ていた。


 俺は、何もできないバカなりに。

 美鈴を守れるのなら。


 俺が、AIに採点されているとしたら、多分赤点だな。

 追試されちゃうだろうな。

 こんなこと、もうこりごりだけど。


「どうした? 早くしろよ」

「サッカー部に立てついて申し訳ございませんでしたって」


 悔しいけれど、これが現実。

 俺には、力が無かった。

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