第13話 駅前のサッカー部
「あそこにいるのは、サッカー部のエース。他にも、副キャプテンと二年生の人達もいる」
「そうなのか?」
さすが美鈴だ。なんでもわかるんだな。
画像認識もしっかりしているんだな。
サッカー部の連中が、駅前で遊んでいるのか。
こんなところにいるってことは、今日は部活が休みなのかな。
楽しそうに、はしゃいでいるように見える。
サッカー部は身長も高いし、体格もしっかりしている。顔も良いし。
こういうやつらが、モテるんだろうな。
羨ましい限りだよ。
けど、確かサッカー部は大会近いって言ってたから、放課後の練習に加えて朝練もしてたと思うんだけどな。
五十嵐さんがそう言っていたし。
今日は、放課後の練習は無しになったのか?
まさか、サッカー部をさぼっているなんてことないよな?
……たとえ、そうだとしても、俺には関係無いか。
サッカー部は、複数人で取り囲むようにして、女の子に声をかけている。
ナンパのようだけれども、俺には関係ないことだもんな。
気にしないでおこう。
……けどな。
五十嵐さんみたいなマネージャーさんが、朝練まで付き合ってくれたりして。
あんなに頑張ってるって言うのに、こいつらときたら。
へらへらとナンパしてるのか。
そう思うと、なんだか腹が立ってきたな。
サッカー部の連中が、女の子に詰め寄っていく。
「おいおい、俺たちが奢ってやるから、これから一緒に遊ばないかって提案してやってるんだぜ?」
「なんで断ろうって思ってるんだ? これは、誘いじゃない。強制だ」
そんな脅しともとれる声が聞こえてきた。
詰め寄るサッカー部から離れようとして、女の子は躓いて転んでしまった。
尻もちをつく女の子。
足をひねってしまったのか、すぐ立ち上がれないようだった。
サッカー部は、痛がる女の子の手を強く握って、無理やり立たせていた。
――サッカー部は、足が大事。
五十嵐さんの言葉を思い出すな。
アイツら、情けない奴らだな。
他人の足は、気にしないなんて。
……そうは言っても、俺には何もできない。
こういう時は、見て見ぬふりをするしかない。
俺は下を向いて、おとなしくしてやり過ごそうと思っていたら、美鈴は俺の手を振りほどいて、サッカー部の方へと向かっていった。
「……オイ、おめえら。何してんだ?」
俺に話していた時の可愛い声色とは違い、ドスの聞いた低い声。
怒鳴る訳では無く、静かにそう言う。
サッカー部のやつらとは、関わり合いにならない方が良いと思うんだけれども……。
AIの考えは、やっぱり俺にはわからない……。
「女の子に寄ってたかって、恥ずかしくないのか?」
「はっ? なんだお前? お前が俺たちの相手でもしてくれるのか?」
「可愛い顔してるから、それでもいいけどな」
「発育は、ちょっと足りてなさそうだけどな」
サッカー部が美鈴へと詰め寄ろうとすると、ピーーーーっと大きい音が鳴った。
これは、防犯ブザーの音だ。
美鈴がやったのか?
大きい音に、辺りにいた人達は騒然とした。
これで、あいつらを追い払おうっていう算段なのか。
美鈴、カッコいいな。
俺にはできない芸当だ。
いや、これを見本にして、学べということかもしれない。
美鈴先生。さすがです。
防犯ブザーの音がうるさく鳴っているが、サッカー部は慌てずにへらへらしていた。
「別に俺ら、悪いことしてないもんな」
サッカー部は、美鈴の手を取って防犯ブザーを取り上げた。
そして、防犯ブザーを足で踏みつぶした。
鍛えた足には、耐えられないのか、壊れてしまって音もやんでしまった。
「お嬢ちゃん、もう抵抗はできないな」
……これって、美鈴かなりピンチなんじゃ。秘密道具が壊されてしまって。
……俺が助けに行かないと、マズい気がする。
ガタイの良いサッカー部。
いくらロボットだと知ってても、女の子に暴力を振るおうとする奴は許せない。
……行くしかない。
「ちっ……。反省の色は無いみたいだな。それであれば……」
「お、おい! 止めろ! 女の子に手を出すんじゃない!」
美鈴は何かしようとしてたが、俺はサッカー部と美鈴の間に割って入った。
助けられる算段も付いていないが、こうするしかない。
これでいいんだろ、美鈴。
いつも引っ込み思案で、自分からは飛び込もうとしなくて。
変わりたいと思ったのに、結局AIの力を借りているだけだもんな。
今も、美鈴を先頭に立たせて、俺は隠れて。
変わりたいと思ったら、自分から動くしかない。
後先なんて考える前に動くしかない。
近づいてみてわかるが、サッカー部の威圧は、思ったよりも強い。
ビビるな。俺……。
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