第12話 炎天下に相合傘

「デートの練習だと思ってね。気楽にいこー」

「お、おう!」


 これは、制服デートっていうのか。

 片方は、人間じゃないコスプレをしたロボットなんだけれども。


 それでも、俺にもバラ色の高校生活が来たって感じだな。

 さっきから、手も繋いじゃってるし。

 まさしく、制服デートって感じだな。


 女の子の手って、こんなに柔らかいんだな。

 ロボットだけれども。

 ……可愛いな。


 美鈴の方を見ると、笑いかけてくれる。


「私とのデート、楽しいでしょ?」

「おう。多分、楽しい。……と思うよ」


 まだ始まったばかりだしな。

 誠実に本音で答えないとだもんな。

 無責任に、楽しいって言っちゃってもと思うし。


「じゃあ、何か楽しくなる話して」


 若干声の張りがなくなったな。

 そうか。こういう時は、男の方から話題を振らないといけないのかもな。

 それを促そうという、プログラムが動いているのかも。


 それであれば……。



「あの、美鈴はさ、何が好きなの?」

「特に無い」


「そうなのか……。例えば、夏にアイスを食べるって言うのはやっぱり美味しいって思うんだよ、俺は」

「そうなんだね」


 なんか、いきなり冷たい喋り方になったな。

 こいつの情緒は良く分からないな。


 外気温のせいかな。

 暑いと、CPUの働きも鈍るっていうことか?

 まだ、美鈴という仕組みが分からない……。


 そもそも、これってどうなってるんだ?

 遠隔操作的な感じなのかな。

 CPUはどこにあるんだ?



 美鈴の方を見ると、涼しげな顔はしているものの、額から汗がにじみ出ていた。

 やっぱり、リアル過ぎるよな。

 本物の女の子みたい。


 けど、これはAIだから勘違いしちゃいけないな。


 デートだと思って、手を繋いでみているものの。

 あらためて考えると、すごく恥ずかしいなこれ。


 美鈴も女の子を模倣して、照れたりすることもあるけど。

 こっちの顔を見ないっていうことは、実はすごく照れてるんじゃないか?

 もしくは、冷たい返事だったから、少し怒ってるのかもだけれども……。



 ◇



 炎天下の中、学校から駅まで歩いていく。

 俺が何か話題を振ってみても、一つの返事で終わる状態が続いた。

 これも、女の子とのデートの参考にしてくれてるのか。


 いや、もしかして。

 ここで、俺に気づけと。


 女の子がこんなに暑い中、文句も言わずについてくるわけないだろと。

 それは、ごもっともだな。


 そうだそうだ。

 今更だけど、これを渡してやろう。

 鞄から日傘を取り出して、開いて美鈴の上にさしてあげた。

 日傘の中と外とでは、温度がかなり違った。


 美鈴は多分、俺にデートのシミュレーションをしてくれているわけだからな。

 こういうことが出来るようじゃないと、彼女なんて夢のまた夢ってことだろう。


 俺が最初に言ったお願いを叶えてくれようっていうプログラムが発動しているのだろう。

 俺もそれに答えて、美鈴から良い評価をもらえるようにならないとな。

 そうすることで、俺のバラ色高校生ライフが待っているってものだな。


「睦月、日傘なんて持ってるんだ。気が利くね」


 まだ、CPUは冷えないのか、そっけない態度が続いているようだった。

 アイスでも食べたら、機嫌直してくれないかな。

 そこまで、どうにか会話を持たせないとだよな。


「俺って、人目とか気にしないからさ。男であろうと、暑い日は日傘をさすのが最適だと思ってるんだ」

「確かに。睦月は賢いんだね。そういうところ良いと思うよ」


 美鈴はそう言うと、少し顔を赤らめているようだった。

 美鈴はやっぱり暑さに弱いみたいだ。


 手を繋いでいると、傘がさしにくかったので離してしまったが。

 代わりに美鈴は、俺のズボンをつかんできた。


 甥っ子がよくこういうことしていたな。

 子供じゃないんだから。

 掴まなくても良いのに。

 小さい声で、美鈴が言う。


「駅前は、人が多くてはぐれちゃうかもだから。掴ませて」


 ……なんだこの生き物。

 ……可愛すぎるな。


 と、AIに惚れてしまってもしょうがないけど。

 夏の暑い日に相合傘。

 本当の女の子だったら、俺は昇天していることだろうな。


 これが本当の女の子だったらと妄想しながら、アイス屋へと近づいていくと、美鈴から声をかけられた。


「あれ? サッカー部のやつが並んでいるよ」

「本当だ。今日はサッカー部って休みなのか? 大会が近いって言っていたのに……」

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