第11話 睦月との対面(※四之宮 卯月の視点)
家にいるのも暇だったし、久しぶりに学校に行ってみるのもいいかなって思って。
私、一応パソコン部だし。
別に私は、引きこもりってわけじゃない。
登校していないのも、私に合うような人間がいないって思ったから行くのを辞めただけだし。
家にいても、テストさえ受ければ進級できるから。
気の合わない人達の中で、パフォーマンスを下げてまで一緒にいるっていうのが合理的じゃないって思ってただけ。
学校へ行っても、結局一人でいるんだったら、家にいるのと変わらないじゃんって。
久しぶりに着る制服を見る。
きちんとアイロンをかけてからハンガーにかけていたけれど。
梅雨を乗り越えると、少し寄れている気がした。
誰からも相手にされないから、気を使う必要は無いんだけれども。
ただ気まぐれで学校行くだけだし。
アイツからどう思われたって、別に。
そう思いながらも、アイロンをかけることにした。
久しぶりに外に出るから、一応気を付けてても良いかなって思うし。
アイロンをかけたワイシャツに袖を通す。
一度しか着てない制服を着る。
全身が映る鏡を見ると、入学式の時のように希望に満ちたような私がそこにいた。
……別に、何かあるってわけでもないけどさ。
私は、久しぶりに外へと出た。
◇
所属している私が、パソコン部に入っても問題無いはず。
半地下のパソコン部。
一回だけ入ったことがある部屋。
私も学校になじめてたら、毎日ここにいたのかな。
部室内を見渡しながら、椅子がある辺りまで進む。
ここ、アイツの席かな。
私は、この隣辺りにいたのかもな。
座ってみると、目の前のディスプレイに私の顔が映る。
そこには、こわばった顔が映し出されていた。
柄にもなく緊張してるのかな。
大丈夫かな。私の格好とか、変じゃないかな……。
ディスプレイ越しに変なところは無いかなと見ていたら、扉が開いた。
「あの、どちら様でしょうか? そこは俺の席なんだけど……」
「美鈴です」
睦月は、私をじろじろ見てくる。
私のこと認識してるかな。
「最近のAIってすごいね。本物みたいだ……」
あれ? 分かってないのかな……?
私をAIだと思ってるのか。
一回会ったことあるんだけどな。
……なんか悔しいな。
ちょっと、腹いせにからかってみようかな。
「直接会ってみると、結構カッコいいですね」
案の定、慌てだした。
ははは。
女の子にそんなことを言われて、嬉しくない男はいないもんね。
「いや、なにを、え?」
ついつい笑っちゃったけれども。
人付き合いのために、作り笑顔をするとかそう言うのって嫌いなんだよね。
そんなこと気にせずに接することが出来るっていいな。
睦月は、勝手に良い方向に解釈してくれるし。
「AIもそういう、冗談が言えるんだな。すごい」
「ふふふ」
睦月は、真面目な顔になって言ってくる。
「俺に気を使って地味目にしてくれたかも知れないのだけれど、もう少し抑えめでも良かったよ」
「……それって、どういう意味ですか?」
「いや、思ってる何十倍も可愛いかったからさ。もうちょっとモブっぽい装いでも良かったなって思って」
私がAIだと思って、建前とか気にせずに、本心を言ってくれてるのかな。
そう思うと、なんだか嬉しいな……。
友達ってこんな風なのかな。
私には、いたことは無かったけど。
急に睦月は、もじもじしだした。
「……えっと、なに話せばいいんだろ。なんだか緊張しちゃうな」
そう言われるのも、悪くないな。
もう少しだけ、からかってやろうかな。
「睦月君は、モテたいって言ってたじゃないですか? 私で良ければ、デートしてみますか?」
そう言うと、睦月の顔が赤くなっていった。
そんなに照れなくてもいいじゃん。
なんだか、私まで恥ずかしくなるよ。
窓ガラスが割れている部屋。
暑くならないようにって、冷房をガンガンに入れているから涼しいはずなのに。
なんだか顔が熱かった。
私は、そんな感情なんて捨てたはずなのにな。
夏って暑いんだね。
「こんな子と、デートできるなんて一生の思い出になるよ、ありがとう」
……そんなことで喜ぶなんてね。
……もし私が二やついてても、有能なAIだから自然な反応を返してるだけだよね。
今度は私がもじもじしてると、睦月は私の手を取った。
「そしたら、部活なんてしてないでさ。すぐ行こう!」
男の子らしくて、ごつごつしてるけれど、優しい手。
「あれ? 美鈴の手、なんだか暖かくなっちゃってるみたいだ? もしかしてこの部屋暑かった?」
「……そうだね。私にとってはすごく暑いのかも知れない」
「そうかー。そしたら、冷たい物でも食べに行こう!」
睦月は、手を放してくれない。
悪い気はしないけれど。
体温が上がるのがバレちゃうから、離して欲しいな……。
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