第3話 AIチャットに質問

 割れた窓ガラスの掃除は思いのほか大変だった。

 やっぱり、五十嵐さんに手伝ってもらえば良かったと、少し後悔しつつ。

 俺と如月は、二人で掃除を終わらせた。


 五十嵐さんがいなくなった部屋にも、まだ彼女の香りは残っていた。

 あんな女子と、いつも一緒にいるサッカー部。

 遠くから羨ましがることしか出ないと思っていた。


 俺には手は届かないと思っていたけれども。

 あちらから舞い込んでくることもあるんだな。


 俺は、思い付きで如月に聞いてみた。


「なぁ、例えばの話だけどさ、五十嵐さんみたない人と付き合うためにはどうしたらいいと思う?」

「なんだい。いきなりどうしたの?」


「俺は今、この部活にいるけど、違う未来もあったんじゃないかなって思うんだ。女の子と付き合う未来とか」


 俺がそう言うと、如月は大きくため息をついて首を横に振った。


「君はまだ三次元に未練を残しているんだな? 俺たちが三次元にモテるわけないぞ」

「まぁ、そりゃそうだな。そんなことができてたら、今頃こんなところにいないわけだし」


「そうそう。おいらたちができるのは、プログラミングだけだぞ」


 悔しいけど、如月の言う通りなんだよな。

 どうしようもないんだよな。


「未来のロボットみたいにさ。お前のプログラム使って、上手いことならないか」


 丸々と太ったフォルムの如月。

 パソコン関連だったら、何でも叶えてくれるんだけどな。

 結局それも、虚構の世界の話なんだよな、現実世界には、干渉できない。


「うーん。そんなに真面目に困ってるのかい? そんな困りごとだったら、今流行りのAIチャットにでも聞いてみたらどうかな? 友達がいないおいらは、困ったらいつでも相談しているよ」

「それは寂しすぎるだろ。悩みがあるなら俺に言ってくれよ」


 如月の困った顔は見てないけどな。


「まぁまぁ。意外と上手く受け答えしてくれるんだよ」

「そうなのか? 試しに聞いてみるか」


 如月に案内されたページを開くと、パソコンディスプレイ上に文字が表示されていく。

 スマホでメールをする時と同じ雰囲気で文字が表示されている。


 AIからのメッセージは、画面左側に表示されるようだった。


「初めまして。私はあなたをお手伝いするAIです。何かご質問をお願いします」

「おぉ? なんか出たぞ、如月。これって、どう使うんだ?」


 初めて使うから、如月に聞かないと分からないなぁ……。

 そう思って聞いたんだが、如月は呆れた顔をしてた。


「パソコン部なのに使い方も知らないのかい? しょうがないから、おいらが試しに使ってみるよ。これは、何か命令を入れて上げれば、答えてくれるんだよ」

「そうなのか」


 如月は、俺からキーボードを奪うと入力し始めた。


「例えばだよ、さっきのサッカー部のマネージャの五十嵐さんの事が知りたいなーって入力するじゃない?」

「いや、バカ。俺はそんなんじゃねえけど。……まぁ知りたいってことにしておくか」


「睦月は、素直じゃないなー」


 如月が質問を入力すると、画面の中のAIチャットから回答を返してきた。


「分かりました。こよみ高校の、サッカー部のマネージャーの五十嵐皐月さんですね。調べてみます。少々お待ちください」


 AIチャットは、少し考えたあとに答えを準備してくれた。


「五十嵐皐月さんを検索すると、このようなSNSが見つかりました。あだ名は『さっちゃん』。コスメにハマっているようで、一週間前に買った香水がお気に入りのようです。それを付けるのが最近の一番の楽しみです」


 AIチャットによって、表示された文章。

 やけに詳しく書かれている印象だ。


「ほー、すごい。けど、これって本当なのか?」

「最近は、AIの精度も良くなってきてるし。間違っていることはほとんど無いよ」


「なるほど。そう言われたら、五十嵐さんから良い匂いしたな」


 AIチャットが続けて返信してくる。


「どうでしょうか? 私の回答はお役に立ちましたでしょうか?」


 画面の中のAIチャットが決まった定型文を返してくる。

 情報は正しそうだし、これは結構役に立つツールって感じだな。


 俺が関心していると、如月は自分の手柄のように自慢げになっていた。


「最近のAIチャットって、すごいよね。あとね、この子は、ちゃんとフィードバックの返事をしてあげると良いんだよ。そうすることで精度が上がっていくんだ」

「へぇー。そうなのか。なんだか、人間みたいな感じだな」


 返事を待っているAIチャット。


「どうぞ、続きを質問してください」

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