第39話 正体の告白(※四之宮 卯月の視点)

 遡ること少し。

 パソコン部を出てきた女子三人。


 私は、あらためてYAYOIと皐月に打ち明けることにした。

 私が、『四之宮卯月』だってことを。



 それが一番安全だと判断したから。

 変に皐月に感づかれて、それをバラされてしまうことが一番のリスクだし。

 YAYOIにも、しっかりと口止めしておかないと、口が軽い女だからいつ喋ってしまうかといったリスクがある。


 何に対するリスクなのかって言えば、もちろん決まってる。


 睦月に私のことをバラされるっていうリスク。


 バラされてしまったら、どうなるっていうことも無いかもしれないけれど。

 こんなに楽しい生活を終わらせたくないっていうか。


 べ、べつに、睦月のことが気になるとかじゃなくて。



 そんなことを考えながら、三人で廊下を歩く。

 私が先頭を歩いていて良かった。

 きっと、私は赤い顔してるんだろうな。

 自分でもわかるようになってきたよ。


 廊下は、いつも通り汗ばむくらい暑かった。



 廊下を突き当たりまで行くと、階段がある。

 階段を少し上がって、踊り場の所で止まる。


 顔だけが冷やせる。

 そんな場所。


 私は、皐月の顔を見てしっかりと伝える。


「私は、四之宮卯月です。久しぶり皐月」

「……ん? 美鈴さん、どうしたの?……卯月って?」



 皐月は、不思議そうな顔をしている。

 この娘は、いつも鈍いんだよね……。


 小さい頃は、あんなに一緒に遊んでたのにな。

 私が説明しようとすると、YAYOIが割り込んできた。


「皐月、こいつのこと覚えてない? というか、もしかして私のことも覚えてないか? 小さい頃さ、高度な『おままごと』をして遊んだじゃん。プログラマーと、そのお客さんっていう設定とか、クレーマーを黙らせるテレアポごっことか」


 ……うーん。そんな遊びしてたっけな?

 ……私とYAYOIだけの遊びだった気もするけれど。


「うーん……。そんな変な遊び……。YAYOIさん、卯月……? あぁ! もしかして、あの二人!?」


 皐月は、驚いた顔をしたけど、すぐに納得したという顔をした。


「あの二人が大きくなると、こんなになるだね。確かに、確かに」



 とりあえず、皐月には伝わったらしい。

 伝われば、手段は何でもいいか。


「そうしたら、もしかしてその遊びの延長戦ですか? 『AIごっこ』をしているっていうことですか! いつまでも遊び心があっていいなー。楽しそう!」


 ……まぁ、そんな解釈でもいっか。

 ほとんど合ってるし。


 私が答えに迷っていると、皐月が楽しそうな顔をして言ってくる。


「もしかして、ここに来て伝えるっていう事は、私も仲間に入れてくれるっていうことですか! 嬉しい!」


 皐月も睦月も。

 勘が鋭いのか、鈍いのか……。


 YAYOIも驚いた顔で、こちらを見てくる。


「そうだったのか! 私は別のことと勘違いしてたぞ。卯月ってば、大事なことは全然言わないし、自分の気持ちを言うのも下手だったからさ。てっきり、別なことかと思ってたよ」


 二人共、私以上に私を分かってるかもしれない。

 このまま、話を合わせていけば、きっと友達関係も昔みたいに上手くいくんだろうな。


 けど、本当のことを言うべきって思う。

 今の私に一番大事なことに気付いたから。


 打ち解けあう二人に向かって、私は口を開いた。


「私、一之瀬睦月が好きなの」



 談笑していた二人は黙ってしまった。


 真実っていうのは、いつもそうだって思ってる。

 誰か人を不快になる要素を孕んでる。

 時には、傷つける要素だってある。


 そうだとしても、一番大事なものを守るためなら……。



 私の告白に、YAYOIが口を開いた。


「だよな! 知ってた知ってた。良く自分で言えたな、偉い偉い」


 そう言って、私の頭を撫でてきた。

 昔から、YAYOIはお姉ちゃん的な立場だったけどさ……。


 皐月も答えてくれた。


「素敵! やっと、卯月にも春が来るんだね!」


 皐月は私の両手を握って、笑ってくれる。



 私が思ってたのと違って、歓迎ムードになってしまった。

 YAYOIが笑いながら言ってくる。


「ちなみに、私も睦月良いと思うよ! 私も好きだし!」

「え?」


 目の前で笑っている皐月も、乗っかって言ってくる。


「ですよね! 睦月君良いですよね。カッコいいし! 私も好きですよ」

「え??」


 YAYOIと、皐月は、今まで以上に楽しそうにしている。


「みんな似たもの同士だな! ははは!」

「ははは! もう、そんなこと隠さずに、すぐ言ってくださいよ!」


 険悪になると思っていたのは、私だけ……?

 普通、険悪になるじゃん……。

 騙されてたこととか、同じ人を好きになっちゃうとか……。


「なんでそんなに、楽しそうなの……?」


 YAYOIが答えてくれる。


「相手を傷つけるとか、関係性が壊れちゃうとか。怖いと思っててもさ、それは単に予想なだけだよ。実際のところは、どうなるか分からない。例え高性能なAIがあったとしてもね!」

「卯月さん、私達友達じゃないですか! 友達の勇気には精一杯答えますよ! 言ってくれてありがとうございます」



 そう言って、二人とも私を抱きしめてくれた。


 ……何でだろうな。

 ……私は悪いことをしたと思っていたのに。


 ……今、すごく幸せな気分。



 二人とも、抱きしめていた手を緩めて、私の方を向いてくる。


「睦月には、自分から伝えるんだろ? 応援しているよ!」

「私達も、負けませんけどね! 誰が睦月君と付き合っても、文句なしですからね!」


「……ありがとう、二人とも」

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