第54話 個別練習!

 脚本も決まり、夏休みも始まった。

 あとは練習だけだと、みんな意気込んでいる。

 秋の文化祭に向けて、演劇部の部室に集まって練習を進めていた。


 魔法にかかる前のシンデレラと、その継母達役の三人は、台本を持って立ち稽古をしている。


「シンデレラ? まだ床が汚れているみたいですよ? 掃除もろくにできないの?」

「ごめんなさい、お義母様。そちらは先ほど掃除したと思ったのですが、また汚れてしまったようです……」



「シンデレラ、こっちも見て頂戴? このドレス、汚れが落ちてなくてよ?」

「ごめんなさい、お義姉様。綺麗に致します……」


 YAYOIさんと、五十嵐さんは、ノリノリで演じているようだ。

 元々の性格が出てきているのか、演技というよりも、自然体のように感じる。

 楽しそうに見える。


 虐められている役の六波羅さんは、とても可哀想に見えるけれども、よくよく見ると、なんだか楽しそうな表情をしていた。

 六波羅さんは、演劇っていうものが、本当に好きなのかもしれないな。


 夢中になって練習をしていた。



 二チームに分かれて練習をする体制となっている。

 魔法にかかる前のシンデレラの練習とは別に、俺と卯月は二人で練習を進める。


「ダンスシーンが、一つの見せ場だからな。こういうところから、しっかりやらないとな」

「……うん」


 ダンスの心得というものは無いが、卯月と一緒に動画を見て予習だけはしていた。

 動画の通り、まずは卯月の手を取る。

 もう片方の手は、卯月の後ろへと回して、身体を近づける。

 卯月の顔を見ると、今まで見たこと無いような表情を浮かべて恥ずかしがっていた。


「……なんで顔を逸らすんだよ、卯月」

「……なんか、近いから」


 長く付き合ってみても、AIっていうものは良く分からないんだよな。

 そうはいっても、俺のやることは、いつもと変わらないけどな。

 いつも通り、卯月を励ます。


「せっかくのシンデレラ役なんだからさ。頑張ろうぜ!」

「……うん」


 二人で足並みを合わせて、身体を動かしていく、

 ダンスを踊ったことは無かったのだが、こんなに揃うものなのかってくらいぴったりと卯月と息があっていた。


「卯月ってダンス上手いんだな」

「睦月のリードが上手いだけだよ……」



 一通り、ダンスパートを終えて身体を離す。

 ダンスに夢中になっていて気が付かなかったけれども、もうひとチームの練習する声が聞こえなくなっていた。


 振り返ると、みんなで俺と卯月を見つめていた。

 特に、YAYOIさんと、五十嵐さんはニヤニヤして見ていた。


「やっぱり、お似合いだな」

「うまくいきそうですね」


 俺は恥ずかしくなって言い返した。


「俺たちのことは良いから、自分たちの練習をしてくれよ。見られていると、なんか恥ずかしいよ」


 六波羅は、呆れたように言ってきた。


「演劇なんて見られてなんぼですよ。それに、声出さない練習だったら、もうちょっと広いところでやってきて下さいよ。こっちも狭いんです」


 その言葉と合わせて、俺と卯月に向かって、顎であっち行けというようなジェスチャーをしてきた。

 シンデレラと継母達、三人とも俺と卯月を邪魔にしているようなジェスチャーをしてきた。


 そうだよな、集中したい時もあるよな。


「卯月、ちょっと場所変えて練習しようぜ」

「……え、うん」



 俺は卯月の手を取って、部室を出ようとする。

 六波羅さんが続けて言ってきた。


「魔法を解いてからのシーンが大事なんだから、それも合わせて練習しておいてね。二人の方がやりやすいでしょ」


 魔法を解いてからのシーンって、なんだっけ?

 とりあえず、練習は必要だから、合わせてやっておけば良いな。


「じゃあ、卯月。誰もいない広い場所。屋上でも行こうぜ」


 俺は、そう言って卯月の手を引く。

 卯月は、顔を赤らめていた。

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