第55話 告白!(※四之宮 卯月の視点)

 睦月に手を引かれて、屋上へと連れて来られた。

 毎度のことだけれども、屋上には明るい空が広がっている。

 風が吹いてくるため、地上よりは少しだけ涼しいかもしれない。


 睦月は私に愚痴をこぼしてくる。


「なんだか、邪魔者扱いされちゃったな。一緒に練習したらいいのにさ。屋上なんて日差しが暑いよな……」

「そうだよね……」


 睦月は、目を細めて空を見上げて、眩しそうにしている。



 いつものことだけれども、睦月は何も気づいていないんだ。


 演劇の練習をしていたあいつら。私たちを屋上へ送り出すとき、ニヤニヤしてた。

 わざと、私たちを二人きりにして来たんだよ、きっと。

 私に気を遣ってさ。


 全員が、私の気持ちを知ってて。

 中々一歩踏み出せない私をせかしてるんだ。


 それもこれも、全部言わなくたってわかるけれども。

 わかることと、できることは別だし。

 私にも、できないことだってあるじゃん……。

 私は、万能なAIじゃないんだからさ……。


「こんな暑いところで、練習なんて、イヤになっちゃうよな。とりあえず、動くのはやめてセリフ読みでもするか」

「そうだね」


 私だけがこんなに悩んでるのかな。

 睦月みたいに何も知らないほうが、気楽でよかったかもだよ。


「俺、みんなには言えてなかったけれども、まだ台本全部読めてないんだよな。ちょっと台本初見だけれども、読みながらやってみよう」


 いっつも呑気でマイペース。

 人が良いから、みんなにされるがままだよ、睦月は。

 私みたいなのがついてないと、やっぱりダメだって思うよ。


 六波羅が付け加えた最後のシーン。

 シンデレラと王子様が二人で演じるところなんだけれども、そこでは六波羅さんじゃなくて、私が演じることになっている。


 六波羅さん曰く「シンデレラの魔法が解けたとしても、王子様から見たら、舞踏会にいたシンデレラに見えるはず!」とのことだけれども。

 その言葉に、みんなニヤニヤして頷いていた。

 そこまでして、私と睦月を無理やりくっつけなくてもいいのに。


 そもそも、現実で、そんなことが起こるなんて期待しない方が良い……。

 魔法が解けてしまったら、王子様はシンデレラのことなんて、みすぼらしい女としか思わないよ……。


「どうしたんだ? 卯月? やっぱり暑いのは苦手か? つくづくAIっていうのも大変だよな」

「……まぁね」


 魔法なんて解かずに、ずっとこのままが良いな。

 ずっと睦月と楽しく過ごせるこのままが。



「そうは言ってもさ、練習しようぜ! せっかくの舞台なんだし。こんな機会に恵まれてさ、意外と俺楽しいんだ。相手は卯月でやりやすいし」


 進まないと、いけないっていうのはわかってる。

 いつかバレちゃうんだったら、今がいいんだっていうことも。

 睦月だったら、本当の私を知っても、受け入れてくれるかもだし……。

 覚悟を決めないと……。


「じゃあやってみようと思うけど。俺のセリフからかー……」


 睦月は、台本を読み始める。


「シンデレラを見つけるために、頼りとなるのは、このガラスの靴だけ」


 ガラスの靴よりも、いっぱいいっぱいヒントはあったのに、未だに本当の私を見つけてくれないもんな、睦月……。

 だから、シンデレラの方から言わないといけないんだよ。


「……その靴、私に履かせてください」

「えーっと、そうしたら、俺がシンデレラに靴を履かせるんだな。普通のシンデレラだと、継母の邪魔が入ったりするんだけど、二人きりなんだな」


 私は睦月に答えてあげる。

「……シンデレラの本当の姿を知らないのは、王子様だけだからだと思うよ」


 睦月は、難しい顔をしながら頷く。

「なるほど? 王子様って、なんだか鈍感なんだな。ガラスの靴なんてなくても、シンデレラってわかると思うんだけどな、普通だったらさ」

「私もそう思うよ。なんでわからないのかな? だから、シンデレラから申し出ないといけないんだよ。まったくさ。」



 睦月は、気持ちわかるよという感じで頷きながら、台本を読み進める。

「じゃあ、とりあえず先に進めると……。あれ? シンデレラって名前が、卯月に書き変わってるんだな、この台本」

「そうだよ。読み進めて、次は睦月のセリフ」


「お、おう。俺、初見だからさ、ちょっと待ってな。うーんと。『外見がどうだろうと、中身がどうだろうと、君は卯月だ』」

「……うん。そうだよ。私は四之宮卯月だよ。今までもこれからも、ずーっと、そう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る