第56話 告白の続き!(※四之宮 卯月の視点)

「私は、本当は、四之宮卯月なんだよ」


 睦月は、不思議そうな顔をした。


「まったく卯月は、そんなこと言って……。やけに砕けた感じで、セリフをアレンジしちゃうんだな。まぁいいか、続けるか……。あれ? 『魔法』って言葉も書き変わってて……、何だこりゃ?」


 ……睦月は、こんなに言っても、まだ気づいてないの?

 さすがの睦月も、もうちょっと先に進めれば、わかるでしょ、


「いいから、早く読め! ばか睦月!」


 睦月は、しぶしぶ台本を読み進める。

「魔法≪AI≫じゃなくても、俺は卯月自身が好きだ。愛してる……」


 一番いいセリフを、台本見ながらしゃべって……。


「……睦月、棒読みだったから、もう一回言って。ちゃんと私の目を見て」


 睦月は、まだ首をひねってる。

「なんだそりゃ。初めてだからお手柔らかに頼むよ……。それにしても、卯月がAIじゃないなんてセリフをこの台本で、俺に言わせてもなぁ。変なルビを振って、セリフが全然頭に入って来ないんだよなぁ」

「セリフをしっかり理解しろ。私がAIじゃないって言ってるの」



 いつまで経っても、ピンと来ていない様子の睦月。

「うーん。そんなこと言われても、卯月はAIなわけだし。なぁ?」


 睦月は、やっと台本から目を上げて私の方を見た。

 睦月と目が合う。


「もう一回言うけど、私はAIじゃないって言ってるんだよ。私は、人間なの」

「まぁまぁ、卯月。暑いから、またおかしくなってきたのかな?」


「もう、頭固いなー! ばかっ!」


 私は睦月に身体をくっつける。


「ほら……。私の心臓の音……、聞こえるでしょ……?」

「ん……? えっと、それは疑似的な……?」


 もうじれったいな……。

「そんなこと、あるわけないじゃん。早くわかれよ。入学式の時に私と会ってるだろ。四之宮卯月、思い出せよ……」

「んー……? 四之宮卯月……」


 こいつの、人の良さは筋金入りだな。

 睦月の顔を押さえつけて、私の顔をまじまじと見せつける。


「一緒にパソコン部に入部した、女子! 数か月前だよ! 覚えててよ!」

「四之宮卯月……は、わかるけれども……。えっ……、マジで……?」


 現実世界で、魔法を解くってこんなに難しいんだな。


「ずっとずっと、ずーーーっと私は、四之宮卯月だよ!」

「えっ、嘘だ! うそ、うそ!」


 睦月は、慌てだした。

 すごい速さで目が泳いでいた。


「みんな知ってるんだよ。睦月だけ知らなかったの!」

「え、そんなことってあるの? 卯月はAIだったんじゃ……」


 私は、睦月から身体を離した。

 一歩下がって、きちんと伝える。


「騙してたわけじゃないけれども、ごめんね。やっとこれで、魔法は解けたみたいだね」

「え、あ、おう……」


 私は、睦月の顔をまっすぐ見て言う。

「私も気付くの遅かったけどさ……。睦月は、私にとっての王子様だったんだよ。一緒にいて楽しいし、ずっとドキドキしっぱなしだし。これからもずっとずっと一緒にいたいって思うんだ……」


 睦月は、私の言葉を黙って聞いてくれる。

 私は、そのまま話し続ける。


「こんな私でも良かったらさ。今まで通りに接してもらいたいな……」


 なんで、ここで弱気になっちゃうんだろう、私。

 求めすぎちゃダメだって思うけれど。

 今まで通りじゃなくて、もう一歩近づきたいって思うのに。

 そんな気持ちは、睦月はわかるはずもないから、きちんと言葉で伝えないといけないのに……。

 これ以上、言葉が出ない……。


 私と睦月の間に、しばらく間が沈黙が流れた。


 私の精一杯の告白……。

 これ以上言葉を重ねることはできないけれど、伝わってくれるといいな……。


 私が見つめていると、睦月は、ハッとして何かを悟ったように、真剣な表情になった。

 そして、私に返事を返してくれた。


「卯月……。お前の気持ちが、やっとわかったよ。これから、もっと絆を深めよう。もちろん、俺も卯月のことが好きだよ。……愛してる」


 睦月は、私に一歩近づいてきて、そして顔を寄せてきた。


 ……やっと、通じた。

 ばか睦月の魔法が解けたみたいだ。


 そして、魔法が解けても、王子様は私を好きでいてくれる。

 睦月を信じてよかった。


 私は、目を閉じる。

 そして、睦月の唇を待つ。


 私の顔に、暑い日差しが降り注ぐ。

 顔がアツアツなのは、全部太陽のせいです。

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