第53話 脚本、決定!

 卯月のシンデレラ役が決まったところで、朝礼のチャイムが鳴り、朝練の時間は終わった。

 終わり際に、六波羅さんと如月は、引き締まった顔をして言ってきた。


「台本は、今日中に練っておくから任せておいて!」

「うんうん、オイラたちに任せておけば大丈夫!」


 二人は顔を見合わせて、強く頷いていた。

 この二人のコンビも意外としっかりしているのかもな。


「じゃあ、また放課後な」


 そう言って、別れようとしたら、卯月が俺の手を掴んできた。


「今日からさ、私も授業に出ようかな……」

「ん? えっと、四之宮卯月として……?」


 卯月は、顔を下に向けて、困っているような雰囲気を感じた。


「……やっぱり、まだいいや。ごめん、なんでもない。放課後まで待ってる」

「お、おう」



 ◇



 夏休みが近いので、それぞれの授業の先生が夏休みの宿題の話をしてきたりした。

 ホームルームでは、夏休みの過ごし方なんかも、話される。

 高校生って、子供じゃないんだよなって思いながら、注意事項を聞いていた。


 繁華街に行くときは気を付けろとか、バイトの話とか。

 お小遣いの使い方なんていうのも言われたりした。

 異性との交遊も、ほどほどにだってさ。


 全部に口を出してくる親みたいだよ。



 それでも、これから自由な時間が訪れるって想像すると、なんだか解放された気分になるな。


 今年の夏休みは、文化祭に向けて、みっちり練習するんだろうな。

 以前の俺からしたら、考えられなかったな。

 この楽しさが、一生続けば良いなって思うよ。


 まぁ。プログラミングコンテストの時みたいに、合宿みたいにはならないといいけど……。



 良い台本、出来上がってるといいなー……。



 そんなことを考えていると、すぐに放課後がやってきた。



 いつもの流れでパソコン部へと行くと、いつも通り卯月が迎えてくれる。


「今日も、授業お疲れ様」

「ありがとう」


 なんだか、熟年夫婦みたいな会話をしながら、他のメンバーを待つ。



 しばらくすると、六波羅さんを含めたメンバーが集まった。

 全員そろったところで、あらためて発表された。


「この内容で決定にしたいと思います!」



 六波羅さんの宣言通り、シンデレラ役は卯月になっていた。

 ただ、六波羅さんの名前もそこに書いてあり、それぞれカッコ書きがしてある。


『シンデレラ(変身前):六波羅 葵月』

『シンデレラ(変身後):四之宮 卯月』


 魔法にかかる前と後で、変わるらしい。

 そういうものも、アリなのか?


 やりたいことを実現するには、それが良いのかもしれないが。

 六波羅さんが口を開いた。


「これが一番ベストな配役だから、もう文句は言わないこと。適材適所です」


 YAYOIさんが、意見を言うように、手を挙げて尋ねる。


「私たちの見せ場ってあるんですか?」

「もちろん。最初の見せ場だよ。シンデレラ役の私を思いっきり、いじめてね。日々の鬱憤うっぷんを私に。その方が、私が引き立つからさ」


「へぇー。なかなかの覚悟をお持ちで」

「演劇を成功させるためならね」


 悪い部分を引き受けて、煌びやかなところだけを卯月に譲るなんて、六波羅さんの覚悟は確かにすごそうだ……。

 そして、もう一人の脚本担当の如月も発言をしてくる。


「オイラからも、見せ場を一つ提供しているんだ。シンデレラを虐める継母とその娘は、魔法使いに取り入ってください。そうすることでね、色々と引き立つから。ちなみに魔法使いはオイラだから、お願いね」


 この脚本を元から聞いていたであろう六波羅さんは、無表情。

 他メンバーは、明らかに嫌そうな顔をしていた。


 五十嵐さんが、ボソッと一言。

「……それ、本当にいらないでしょ」


 YAYOIさんも、頷いている。

「それは、却下。代わりに、王子役の睦月との社交パーティシーンを厚くしようぜ。そっちの方が華やかでいいだろ」


 無表情だった、六波羅さんも加勢に加わってくる

「やっぱりそうだよね。その部分があると話ブレるし、王子様を引き立てる方が、最後のシーンに繋がって良いと思うよ。如月君、ごめんね」


 決定と力強く言っていたが、示し合わせたようにとんとん拍子で脚本が変えられていった。

 まとめとして、六波羅さんがつけ足した。


「基本的には、シーンごとに読み合わせ練習をしていくからね。みんな、『リアリティ』を大事にね!」

「「はい!」」


 如月以外のメンバーは、力強く返事をした。

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