4章 プログラミング大会編(後編)

第28話 宣戦布告!

 昼休みに屋上で飯を食う。

 今日は、如月と二人だ。


「そろそろ、身が持たねぇ……」


 バラ色の高校生活を送りたいと思っていたけれども、バラが二つもあって、こんなに近い状況になるとは、予想外だった……。

 しかも、片方のバラはトゲが多いんだよ……。


 俺の弱音に、如月はへらへらとしていた。


「いやー。いいよなー、美少女二人に囲まれて。羨ましいよ」

「そんなこと言われてもだな。一人はとても攻撃がキツイ……」


「美鈴ちゃんだっけ? ‌あの謎の美少女。あれって、本当になんなんだろうね?」

「AIチャットのサイトを長い間使ってて、如月も初めてなのか? ‌最近のAIの進化ってやっぱりすごいって事だな」


 如月は、難しい顔をして首を捻っていた。


「その問題は置いておいて。睦月は、どっちが良いと思うんだい? ‌五十嵐さんと、美鈴のどっちが良い?」


「そりゃあ、もちろん、五十嵐さんが良いに決まってるよ。人間だし」

「百歩譲って、AIが本当だとしたら、好き放題できるんだよ?」


「いや、如月は美鈴を分かってないぞ。美鈴がそんなことしたら……」



 そういえば、美鈴にエッチなことをしたらどうなるんだ……?

 俺の部屋では、美鈴から誘ってきたし。


 もしかすると、本気で俺を誘ってきていたのか。

 まさかな。



 まぁ、どちらしても。

 疑似的にも、二人から選ぶなんて難しいよな。

 そんな状況が俺にも来るなんてな。


「いいなぁ、まさにバラ色の高校生活じゃないか」

「はは。言われたらそうだよな。けど、バラ色の高校生活って言ったら、他校の女の子とか、違う学年の先輩からも言い寄られたりもあるよな」


 なんて言ってみるけど、もうこれ以上は大変だけどな。はは……。


「もう、睦月は贅沢な悩みだなー」



 その時、屋上のドアが開いた。


「頼もうーーー!」


 屋上へと上がる階段の扉。

 そこに立っていたのは、見慣れない制服を着た女の子だった。


 夏の風は微風で、女の子の長いスカートを揺らすには至らなかった。

 女の子のスカートは、自らが歩くことで揺れる。


 長いスカートから、すらりと長い足が見える。

 モデルのように、両足を少しクロスさせて、こちらへと歩いてくる。


 スカートも、ワイシャツも、サイズが合っていないのか、体のラインを強調するようにぴっちりとしていた。


 そんなモデルのような体系とはうって変わって、おさげな髪が揺れている。

 パリコレのモデルさんが、おさげ髪をしているみたい。


 おさげ髪が、こんなにオシャレだなんて。



 下フレームしか無いような眼鏡を光らせて、こちらを見ている。


 座ってる俺と如月の前まで歩いてくると、上から見下ろしてくる。


「君たちが高校のパソコン部だね?」

「そ、そうだけど」


「私は、七曜しちよう高校生ハイスクールスチューデントの二年。YAYOIだ。今度の大会コンテストに出ると聞いたもので、挨拶に来た」


「は、はぁ」



 なんだか、ところどころ発音が良いというか、英語の発音が綺麗だった。

 如月はすごく驚いた顔をして震えていた。



「あれ、如月どうした? ‌お前、こいつ知ってるのか?」

「この人、いつも姿を見せない、謎の高校生YAYOIだよ……。海外の高校に留学しているって聞いたけれども……」


「そう。先週帰ってきたところだ」


 敵意たっぷりだったYAYOIさんの顔が、少し柔らいだ。


「そうなんだよ。私がいない間、大会コンテストが、とある高校によって独占されていたらしい。それがこの高校」

「は、はぁ」


「だから、私はそれを奪還する! ‌その宣戦布告に来た!」


「あ、はい……。どうぞどうぞ……」


 これ以上の厄介事は、身が持たないからな。

 早めに負けたら、すぐ終われるな。


 YAYOIさんは、ムッとした顔をした。

 海外帰りだからなのか、表情が豊かだな……。


「せっかく私が帰ってきたんだから、本気で来てもらわないと困る」

「は、はぁ……」


 YAYOIさんは、俺に顔を近づけてきて、ニコって笑う。


「分かった。私に勝てたら、何でも言うことを聞いてやろう」


 何でもと聞いて、如月はいやらしい顔つきになってる。

 如月が個人戦で、勝手に戦ってくれれば構わないぞ……。



「ここまで言っても、お前はまだ乗り気にならないのか?」

「そ、そうだね。俺はAIの事でちょっと忙しくて……。色々と調整してあげないと、最近ツンデレ化が酷くて……」



「なるほど、AIか。それであれば、私がその問題を解決してもいいぞ」

「えっ? ‌本当か?」


 YAYOIさんのニコニコ顔が、更に嬉しそうな顔に変わった。


「ははは、分かったぞ。そこが君の弱点だな。お前が勝ったら、私は何でも言うことを聞く。逆に私が勝ったら、そのAIというものをもらう」


「いや、そういうことは、AI自身に聞いてもらわないと……。美鈴に了解を取ってからじゃないと、あいつ怒りそうだよ……」


「ん? ‌君は、自分の頭で判断することもできないのか?」


 煽ってくる相手の挑発には、乗らないで逃げる。

 それが俺の処世術。

 こういうタイプは、勝手に自滅するから。

 適当に言って追い払おう。


 まともに対応しちゃダメだ。

 座ってる俺に向かって、さらに顔を近づいてくる。

 良い花の匂いのようなものが香ってくる。



「言うこと、何でも聞くぞ?」


 ……いや、俺は誘惑には負けない。

 理解の範疇外のイベントは、もうこりごりだ。

 フラグは絶対に立てない。


 いくら近づいて来ようとも、俺は動かないぞ。

 YAYOIさんが地面に膝をついて、迫って来ようとも。

 おでことおでこが触れようとも。



 ……さすがにダメだ。


「近いです……。って、うわーーっ」


 俺は、体勢が崩れて倒れてしまった。

 その俺の上に、馬乗りになるようにして、YAYOIさんが迫ってくる。


 何でこんなに押しが強いんだよ。

 顔がどんどん迫ってくる。

 鼻と鼻が触れ合う距離。


 俺は、ファーストキッスを奪われてしまうのか……。



「YAYOIって人! ‌ストップ!!」


 胸ポケットに入れていたスマホから、声が聞こえてきた。

 美鈴だ。



「その勝負受けます! ‌だから睦月から離れなさい!」

「うん? ‌この声聞いたことあるぞ……?」


 そう言いながら、YAYOIさんは顔を離してくれる。


「聞いた事あってもおかしくないぞ。これはAIサイトの女の子の声だもん。ちなみに、僕がカスタマイズした」


 如月が、俺に代わって答えてくれた。


「へぇー」


 YAYOIさんは、俺に跨った状態で立ち上がる。


「強い人が倒せれば、問題は無いです。あのAIサイトを使いこなしてる人達であれば、相手にとって不足無しですね」


 そう言うと、俺の上から去って行った。

 何だったんだ、YAYOIという人……。

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