ツンデレなAIチャットに、今日も恋愛相談して下さい!

米太郎

1章 AIとの出会い

第1話 半地下のパソコン部

 白い雲、青い空。

 外の世界は綺麗だよな。


 独房のような半地下の部屋には、高窓があるのみ。

 座った状態だと、見えるのは空ばかり。


 椅子から立ち上がって、その窓から外を眺めると、校庭ではサッカー部が爽やかな汗をかきながら練習していた。

 頑張る姿って清々しいな。


 休憩の時間なのか、一旦プレーをやめて、サッカー部はベンチ側へ戻って行った。

 そこで、マネージャーがタオルを手渡している。

 マネージャーの優しい笑顔も、また清々しい。


 可愛いマネージャーにサポートしてもらえるなんて、正直言って羨ましい。

 特に可愛いのは、五十嵐いがらし皐月さつきちゃん。

 サッカ一部の面々は、さっきまでの爽やかな笑顔は消えて、五十嵐さんに対してデレデレな顔になってる。

 俺はどこで道を間違えてしまったのか。

 高校生活なんて短い期間なのに、間違えてしまったなんて、絶対に思いたくないが……。


 長時間座って凝り固まった体をほぐすと、再度椅子に座る。

 視界いっぱいに広がるのは、大画面ディスプレイ。

 映し出されるデスクトップ画面には、綺麗な山と青い空の風景が写っている。


 これは、偽物の世界なんだよな。

 こういう景色が現実のどこかにはあるんだろうけれども、ディスプレイに映されるのはたくさん複製されたうちの一枚なわけで。

 虚構なんだ。


 俺たちは、それで満足するしかないのかもしれない。

 サッカー部のやつらみたいに、可愛い女の子に囲まれるなんて、夢のまた夢。


 部屋の中には、CPUを冷却するためのファンの音が鳴り響いている。


「運動部って、女の子に囲まれてて羨ましいよな。青春してるって感じで」


 俺の隣で、ディスプレイを睨みつけているやつがいる。

 穴でもあけてやろうかっていうくらい。

 眼鏡をかけた太った男。

 二階堂にかいどう如月きさらぎ


 自己紹介をすると、明らかに名前負けしてると言われるまでがワンセット。

 俺をパソコン部に誘ったやつだ。


 ディスプレイを見ながらでも、俺の視線に気づいて話しかけてくる。


「どうしたんだい? ‌女の子に囲まれたいんだったら、ここにいっぱいいるじゃないか?」


 そう言って、操作していたウインドウを閉じて、デスクトップ画面を見せてくれる。

 そこには、二次元の可愛い女の子たちがいっぱい写っていた。


美咲みさきちゃん、春香はるかちゃん、全員僕の事好きなんだぜ?」


 こいつに聞いたのが間違いだった。


 はぁ……。

 俺は、間違いばかりだよ。まったく。


「華の高校生だっていうのに、男二人でパソコンの前で、毎日カタカタカタカタ!これは由々しき事態だろ。俺は、ルックスも悪くないのに、モテないってどういうことだ」


 パソコン部の部室でのひと時。

 サーバー機器が熱くならないよう、空調が行き届いた部屋の中。

 汗もかかずに、毎日パソコンをいじってばかり。

 俺の虚しい叫びも、空調の音にかき消される。


「いやいや、次のコンテストに出るんだろう?」

「もちろん出ようとは思うけれども」


 俺は自分のデスクトップ画面を見ながら続ける。


「けどさ、いくらプログラムが早く書けても、どんなに綺麗なコードを書けたところで、モテないんだよな」

「それは、当たり前だろ。俺たちモブキャラは、それも受け入れる運命。バラ色の高校生活は捨てて。この青白く光るディスプレイのライトが、俺たちの青春の色だって言っただろ? ‌まさに青色」


 そういう熱い演説を聞かされて、俺はこのパソコン部に入部しちまったんだよな。

 今ならわかる。

 この部活は、青春をドブに捨てる部活だ。


 如月は、青白い光に眼鏡を光らせながら続ける。


「気持ち悪いと言われたって、言いたい奴には言わせておけばいいんだよ。女の子なんて、星の数程いるし、僕の秘蔵のコレクションを分けてあげるよ。そんな風景画がデスクトップ画面だなんて、ダサすぎるぞ!」


 力強くそう言ってくる。

 こいつにだけは絶対に言われたくないけれども。

 真面目に相談できる相手くらいは欲しかったな。


 生涯のパートナーとまではいかなくても、高校生活でのパートナー。

 俺にはできないか。


「お前に誘われて、競技プログラミングの世界に足を突っ込んだのは良いけれども。こんなにも孤独感を味わうなんて思ってなかったんだよ」


 如月は、人差し指を立てて、左右に指を振る。


「ちっちっち」


 今時そんなことする高校生見たこと無いぜ……。

 時代を越えてきたタイムトラベラーか。


「やりたいことっていうのは、今しかできないんだぞ? ‌大人になったら、出場できるプログラミング大会なんて無いし」

「そうは言っても、俺はもっと、バラ色の青春っていうものを送って見たかったんだよ」



 ――ガッシャーーン!



 如月と話していると、後ろから大きな音が聞こえてきた。

 窓でも割れたような音がした。

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