第9話 二人きりの屋上デート

 俺はいわゆる、ぼっち。

 唯一の友達の如月は、昼飯もそっちのけでパソコンいじってるから、一緒に昼飯なんて食えないし。

 俺はいつも、屋上で一人飯を食う。


 そんな俺だったが、今日からは一人じゃなかった。


「まさか、五十嵐さんと一緒に登校できるなんて思わなかったよ。

 美鈴ってすごいな」

「それほどでもないよ」


 今日は美鈴と一緒にご飯を食べる。

 屋上にあるフェンスのところにスマホを立て掛けて、隣同士になって食べる。


 美鈴は人間じゃないって言われるかもだが、俺は美鈴を一人の人間として扱うことにしている。

 こんなにすごいAIだから、話し相手としては十分すぎるほどだよ。


 傍から見れば、相変わらず寂しい奴かも知れないけどな。

 屋上で一人でAIを話し相手に昼飯を食べているなんて。

 こんな寂しい使い方をしてるなんて、如月には絶対言えないな。


 結局のところ、いつもの俺と変わらないかもしれないけど。


 空を見上げると、なんだかいつもより明るく見える。とても天気が良い。

 いつもは暑いと嘆くけれども、誰かが一緒にいるだけで、愚痴を吐かなくなるな。


「それにしても。俺でも女の子と手を繋いで登校することが出来たんだよな。すげぇことだよ」

「そんなの、大したことないだろ」


 美鈴は、画面の中で誇らしげにしていた。

 こいつがパートナーになってくれたことで、なんだか上手くいってる。


 このままいけば、これ以上に夢を見られるかもしれない。

 それもこれも、美鈴のおかげだ。


 こういう時は、素直にならないとだな。


「美鈴ありがとうな。本当に、いろんなことができるんだな」

「何でもはできないよ」


 AIも謙遜するんだな。

 本当に人間みたいだ。


「なんでもできそうだけどな。先回りして考えて答えてくれるなんて」

「それは、睦月が最初に言ったように、青春を味わいたいって言うのを思ってのことだよ」


 ……そうか、俺が最初に言ったお願いを聞いてくれてたっていうことか。

 AIも長期記憶があるっていうし、これはすごいな。


「次は、何しようか。『青春』っていうからには、何か夢中になれることでも探す? ‌パソコン以外にも趣味があると楽しいかもだし。私も一緒に付き合うよ」


 優しく微笑む美鈴。

 美鈴が手伝ってくれる。

 こんなに頼りになることは無い。


 美鈴には、素直になんでも話せちゃうな。



「これって、個人情報って漏れないよな」

「大丈夫。私は誰にも言わないから」


「じゃあ、変なこと言っても大丈夫?」


 美鈴は、ハッと驚いた顔を見せた後、じと目で見てきた。

 こいつも結局、男なのかって目で見てくる。

 如月に変なことを言われ続けたのかな。


「いやいや、そんな目で見ないでくれよ。俺は、如月みたいなことは言わないよ」


 そう言うと、少しだけ美鈴の表情が和らいだ。


「最初に言ってた通りなんだけれども。俺はさ、普通の青春を送りたくてさ。こんな、ぱっとしない見た目じゃん。友達もいないし。なにも取り柄が無いし」


「そんなことないよ。どうしたんだ急に。今日の朝の皐月ちゃんと登校できたの良かっただろ? ‌なにか落ち込むことでもあったか?」

「美鈴は優しいこと言ってくれるんだな」


 美鈴は、眉を斜めに下げて、本当に心配してくれるような表情になっている。

 AIであったとしても、表情だって豊かに俺と話してくれる。


「今日の朝、五十嵐さんと歩いて気づいたんだ。人付き合いってやっぱり難しいなって思ってな」

「なんで? ‌ちゃんと話できてたじゃないか」


「朝は美鈴のおかげで上手くできたけれど、結局誰かの力を借りてるなって思って。今まで女子と話せなかったけど、美鈴とならうまく話せるんだよなーって思って。AIじゃなくて、普通の人間だったらよかったのにな」

「……私の事、そう思ってくれるのか」


「もちろん。人間だったら、如月を抜いて、一番の友達になれると思うし。一番のパートナだよ」


 美鈴は少し止まった。

 AIは、計算する時間が少しかかるのかもしれないな。


「もし、私が体を手に入れることが出来たら。今画面に映っているような美少女じゃなくても、がっかりしないか?」

「ん……? ‌俺は、見た目とか気にしないよ。あんな如月だって、俺の一番の友達だし」


「それじゃあさ、二人で会おう!」


 美鈴は、力強くそう言う。

 二人で会うって、今がその状態じゃないのか……?


「今の時代、AIでも体が持てる時代だよ!」


 美鈴は、今日一番の笑顔を見せてくれた。

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