第31話 四之宮卯月!

 会場にある大きなスクリーンに大会開始前のカウントダウンが表示される。

 大会の審判の掛け声と共に、大会はスタートした。


 問題がスクリーンに表示される。

 表示された問題は、全部で三問。


 それぞれ、三人チームで、一人一つの問題を解くという決まりがある。

 三つのノートパソコンで、それぞれ一人一問ずつ。


 問題が表示されて数秒の間があったが、すぐにけたたましいキーボードの音が鳴り始めた。


 ここにいる参加者達は、どうやってプログラムを作るかが瞬時に分かるのだろうか。

 相談したり、考える時間なんて全く無いんじゃないか……。


 隣にいた美鈴も何回か瞬きをすると、すぐにキーボードを鳴らし始めた。

 ここ最近で、美鈴から散々基礎を学んできていたから自信はついてきてたのだが。

 他の参加者が、ここまで早いとは……。


 美鈴は、手を動かしながら指示を出してくる。


「皐月は、一番簡単な『数学と論理の問題』をお願い。睦月は『データ探索型のグラフの問題』。私が、『ヒューリスティックな問題』で最適解を求める」

「お、おう! ‌分かった」


 問題の種類や、傾向は美鈴からさんざん教えてもらっていたから、対応はできる。

 俺は言われた問題に集中しよう。


 五十嵐さんにも、美鈴の指示はちゃんと伝わったようだった。


「わかりました。やってみます」


 そう言って、入力を始めた。


 最初、会場にはキーボードの音が鳴り響いたが、徐々におさまってきた。

 もうプログラミングが終わったなんてことは無いだろうから、行き詰ってしまって考え込んでいるようだ。

 手練でも、詰まるんだな、やっぱり。



 一方、隣の席からはキーボード音がずっと鳴っている。

 美鈴は、すごい速さでキーボードを打ち続けている。

 これがAIの本気。


 ……反則的に、早過ぎるだろ。


 ついつい、美鈴の動きを見つめてしまう。


「睦月、よそ見しないで。私がテストケースを作っておくから、まずはプログラムを完成させることに注力して」


 美鈴は、パソコン画面から目をそらさずに言ってくる。


「大丈夫、睦月ならやれる!」


 本当は、俺がAIのパフォーマンスをあげる為に、美鈴にかけるような言葉だな。

 逆に俺の方が、かけられちまうなんて。


 それにしても、美鈴は画面やらキーボードを見ないでも高速で入力できちゃうんだな。

 やはり人間じゃないということが、思い知らされるな。

 俺も頑張らないと。


 プログラミング競技は、時間との勝負。

 タイムと正確さが、一番良いチームが勝つ。

 俺は必死に自分の部分を進めた。


 会場は、しばらく集中していた。

 静かにカタカタとキーボード音が鳴っていた。



「できた!」


 会場に、声が響いた。

 YAYOIの声だ。

 これは、早過ぎるだろ……。


 まだ俺の分も全然出来てないのに。

 こんなに早く出来上がるなんて……。



「大丈夫、まだ勝負はわからない。睦月は集中力を切らさないで。誤りがあると、最終結果にペナルティが加算されるから」



 美鈴はどこまでも冷静だった。


 ……よし。

 美鈴に励まされてばかりじゃダメだな。


、お前を信頼してるぜ。お前だけがこのチームの頼りだ」


 俺も、ちゃんと声をかけてやらないとな。

 これで、パーフォーマンス上げてくれよ。


 俺にできるのはそのくらいしか無い。

 美鈴は、俺のかけ声に一瞬止まったように見えたが、そのまま手は動き続けて、更にタイピングスピードを上げた。

 俺の応援が効いたのか、美鈴の顔は火照ったように赤くなってる。


 きっと、効いてるってことだな。

 目に見えてわかるとは、このことだな。


「ありがとう睦月。……もっと、その名前で呼んで欲しい」

「あぁ、いくらでも良いぜ頑張れ、!」


 美鈴は、ヒートアップしすぎて壊れちゃうんじゃないかってくらい真っ赤になった。

 一応、この会場で登録されている名前で呼ばないと怪しまれるからな。

 ちゃんと登録名の『四之宮卯月』って呼ばないとな。


『美鈴』っていう、AIの名前で呼ばなくても、効果ってあるんだな。


 AIの変換技術と、解釈スピードは素晴らしい。


「よし! ‌できたっ!!」

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