第42話 ガラス破片の掃除

「なんで、手を組んで帰ってきてるんだ?」


 俺と六波羅さん、そして美鈴が腕を絡めて帰ってきたら、そう言われますよね。

 YAYOIさんのツッコミは、至極真っ当です。

 どうしてこうなったのかは、俺が聞きたいくらい……。


 パソコン部に着いても、六波羅さんは俺と腕を組んだままだった。

 その状態のまま、話し始めた。


「パソコン部の皆さん、初めまして。六波羅ろくはら葵月あづきと申します。この度は、窓ガラスを割ってしまって、すいませんでした」


 丁寧に頭を下げる六波羅さん。

 こうやって見ると、ちゃんとしている人に見える。

 だけど、謝る時くらい 、俺の腕を離せばいいのに……。



「そうそう、自分の責任はちゃんと取らないとだからね」


 YAYOIさんは、六波羅さんの態度に満足な顔をした。

 他の部員も、安心したように見ている。


 六波羅さんは、話を続けた。


「それでですね、掃除しようと思うんですが、一人だと今日中に片付け終われないということで、睦月君と卯月さんが手伝ってくれることになりました。お二人のご好意に甘えさせて頂いおります」


 すらすらと喋る六波羅さん。

 さっきと言ってるニュアンスが若干違うような気もするが……。


「皆お掃除の間、ご迷惑かけてしまいますが、退出頂けると助かります」


 用意していたようなセリフを、すらすらと言う。

 さっきまでの面倒くさそうな態度からは考えられないな……。

 こんなに変わるまで、美鈴は説得してくれたのかな。

 いつもながら、素晴らしい。


 六波羅さんの言葉に、YAYOIさんが答える。


「まぁ、しょうがないか。反省してるようだし、私たちは少しフラフラしてこよう」


 そう言って、みんなは部室を出ていった。



「すごいですね、パソコン部って美男美女ばかりですね。演劇部に欲しいくらい」

「美女は認めるけれども、美男はいないかもな。パソコン部の男子には不釣り合いな女子しかいないって、思ってるよ」



「そんなこと無いですよ、睦月君は十分イケメンですよ」


 六波羅さんは、上目づかいでこちらを見つめてくる。

 本当に、さっきと態度がガラッと変わってしまったな。

 さっきから、胸のふくらみをずんずんと俺の腕に当てて来て。

 付き合いたてのカップルかってくらいに。


 こういうときって、どうすればいいんだろう。

 こんなに言い寄られるなんて、今までなかったし。


 俺は、なすがまま、六波羅さんと腕を組んだままにするしかなかった。

 返答に困ってしまって、六波羅さんと見つめ合ってると、美鈴が間に入ってきた。


「六波羅さん、早く掃除をしましょう。睦月から離れてください」



 美鈴は、無理やり俺と六波羅さんを引きはがそうとするが、六波羅さんはなかなか離してくれない。


「睦月君と、くっついたままでも、掃除できますー」

「いいから離れろ」



 なんだか、俺を取り合ってるみたいだな。

 なんだか、モテてる気分だ。

 悪い気はしない。


 そんな風に二人を見ていると、美鈴が六波羅さんを離すことに成功した。

 その勢いで、六波羅さんは尻餅をついて倒れてしまった。



「うわーつ。痛っ」


 床に座り込む六波羅さん。

 転んだ時に床についた手を、すごく痛がっている。

 確かに、わざとらしいくらい、勢いよく転んでしまったように見えた。


「痛い……」

「だ、大丈夫?」


 思った以上に、痛がる六波羅さん。


 さすがに美鈴も、やり過ぎだろう。

 そんなに強くしなくても良いと思うんだけれども。


 俺は六波羅さんに駆け寄って、立たせようと手を取ろうとすると、六波羅さんの指先から赤い液体が垂れてきた。


「血だ……」


 まだ窓ガラスの破片を片付けていなかった床。

 きっとそれによって、切れてしまったのだろう。


「美鈴! ‌なんてことをしてるんだよ」

「いや……、私は、掃除してもらおうと……」



「やりすぎだろ。俺は、六波羅さんを保健室に連れていくから、すぐに窓ガラスを掃除しててくれ。早くしないとまた誰かが怪我してしまう」


 またしても、美鈴の暴走。

 こんなことになるなんて……。


 俺は六波羅さんの腕を掴んで、立たせる。


 よたよたと歩く六波羅さんに申し訳なく思い、支えになるように腕を貸す。

 他に怪我しているところが無ければいいけど。



 六波羅さんは、怪我をさせた美鈴にも優しく振る舞っていた。


「卯月さん、私は大丈夫です。全然痛くないですので気になさらず。けど、しばらくお掃除はできなそうなので、その間に掃除をお願いしますね」


 痛そうだった六波羅さんは、表情をコロッと変えて、ニコニコと俺に連れられて行った。


 その言葉に、美鈴は睨み返していた。

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