第13話 もやもや (圭side)

 前まで私と接する遥は、無理にというほどではないけれど、どこか明るく振舞おうとしている節が見えた。たった二回くらいしか実際には会ってないのだけど、私はそれがすごく嫌だった。


「あのとき、どう答えただろう」


 私はあの場からいてもたってもいられなくなって、食堂に引き返してきていた。通常の時間割の放課後で本来はがらがらだけど、まだ新入生の出入りが多く席はそこそこ埋まってしまっていたので、廊下側の隅っこの席に座る。さっき落としてしまったシュークリームの袋を覗いて状態を確認すると、落としたにも関わらずまるまると形を保った美味しそうな顔が私を見つめ返してくる。


 彼女の挙動のわけを知って、彼女が装わずに本当の気持ちで接するようになって、いきなりわたしにぶつけてきた人生で二回目の体験。人生で二度と了承しないと誓ったそのお願いに、私は揺らいでいた。それに追い打ちをかけるかのようにさっき見た彼女たちの笑顔が脳裏を埋め尽くして、焦りとも怒りとも悲しみとも違う、だけど鼓動が早くなって頭も心ももやもやして仕方なくなった。


 彼女には申し訳ないけれど、今回のこの勝負はあってよかったと思う。どっちが勝ってもどっちが負けても、この気持ちの答えにたどり着く何かがあるかもしれないから。でも、だけどせっかくなら


「遥……がんばって」


 私のふとした呟きから、明言していなくても私が彼女の誘いにどう答えていたかは明白だなって気づいて少し一人で笑ってしまった。


 すでに椎名部長は生徒会にも話をつけているらしく、教室の背面黒板や廊下の掲示板、そして食堂の壁には早くも二週間後のチラシがでかでかと貼られていた。そこにはやはり私も載っているわけで、どうしてもじろじろと周囲から見られてしまう。その視線は以前からのものより多く、以前からのよりも多くの感情が向けられていると感じるけれど、私の頭は遥に由来するもやもやの方が気になって、ただただシュークリームを頬張っては、ため息をつくのだった。






◇◇◇◇




 遥と上坂の勝負まであと一週間を切った。上坂の方は彼の顔の広さや人望もあってか、軽音部の8割ほどが彼に協力して楽器の調整だったり演奏の上手い人は当日誰がるかを競って日々切磋琢磨している。ちなみに残る2割の部員は私のように手を貸したくない人や部には所属しているけれど人と関わっていない人、幽霊部員なんかが当てはまる。


 上坂の友人たちが嫌でも彼らのバンドのすごさを毎日宣伝しに来る中、ここ何日か遥たちが表立ってメンバーの勧誘をしているのを見たことがない。もやもやもあれからすぐに止んでいたのに、今は頭を彼女への心配が埋め尽くしている。



「遥……」


 不安が募る一方だ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


奇跡の連続投稿ktkr


案の定風邪ひいたので明日からまた送れそうです

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