第40話  ほわーんどぅくどぅくどぅくずーん

「ちょっと待ってくださいね」


 俺は学校使用OKな指定された馬鹿みたいに重いわりに馬鹿みたいに使いにくいパソコンをカバンから取り出して、セキュリティの穴をくぐってUSBから入れたMIDIを起動する。どうしてこれはMIDIソフトを危険だと判断するのだろうか……


「たしかこの辺に……あった」


 キーボードとPCを繋ぐ線を繋いで準備を整える。まあ、キーボードで打ち込むなんて所業はまだまだ難しいのでマウスでポチポチする方が多いのだけども。



「こんな感じなんだ……」


 圭さんが俺の後ろから興味深そうに画面をのぞき込む。今使っているのは無料のMIDIソフトなので音はまるっきり本物ってわけではないが、それでも触りだした人には優しい設計となっている。音がノーツのように伸びたり縮んだりできて、すぐに楽器の重なりを聴けるというのがこれまた面白い点だ。



「どんな曲作ります?」


「んー……あ、あれだ」


「はい!どれだ!」


「ほわーんどぅくどぅくどぅくずーん……ずずん」


「……もっかいお願いします」


「毎回聞きなおすのやめて。恥ずかしいから」


 圭さんはすこし周りを見て顔を手で隠す。周りにいる軽音部員も、圭さんのこういう部分を初めて聞いたからなのかぽかーんと狐に化かされたような顔になっている。てか恥ずかしかったんだ。それでも真面目に答えてくれる圭さん。可愛い……



「これ、最後……いい?」


「はい。やっちゃってください」


「ほわーんどぅくどぅくどぅくずーん……ずずん」


 

 おーけー。脳内で保管できた。ほわーんどぅくどぅくどぅくずーんって感じの曲で、多分最後はずずんって終わる感じかな?まあいいや、そんな方向でいきましょうか。



「ちなみにこれにはどんな思いがおありなので?」


「暑いなー、アイス食べたいなー、って気持ちの学校」


「んー、どうしましょ。リズムは軽やかで重低音も入れてみたいな感じでいきますか」


「任せる……アイス食べたい」


「あはは、じゃあ食堂に買いに行きますか?」


「ここから廊下に出るのもしんどいからいい」


 なんとずぼらな……人のこと言えないか。ずぼらなら、音数はそこまで増やさずに最低限で最初入るか。ギターをいい感じにどぅくどぅくさせて……



「これ、試しに聞いてみてくださいよ」


 約10分くらいでできた30秒ほどのイントロを圭さんに試し聴きしてもらう。


「うん。こんな感じ」


 どうやら高評価のようだ。なんだかんだ言ってここまで二人以上で作曲に向かったことがないから、新鮮な気持ちになる。


「あ、ここ」



 圭さんが指摘したのはギターのどぅくどぅくが始まったあたり。


「ここ、ぽーんって感じが欲しいかも」


 ポーンって感じ……ここに入れるならシンセ系統の音か。重低音よりかはここは軽い方がいいな……なら、これとかどうだろうか。


「ぽーん……あ、このIce Rainってやつどうですか?」


「うん……食べ過ぎて頭痛いって感じ」



 アイスのことを言っているのかな?なるほど、そういう意図があったのかと少し感心する。モノから音や作風を連想するというものは、大体の創作物において常套手段ともいうべきものだが、今でもそんな簡単な原理を使っているのは恐らく、そこから感じ取るものや感じ取れる事柄というのが人によって変わり、限度も全く違うからだろう。圭さんは、想像力がある。少し羨ましいなと、心の中で思う。



 俺は勢いよく立ち上がって圭さんの方に詰め寄る。


「気分転換!アイス買いに行きましょう」


「嫌だ。外暑いから買ってきて」


「えー行きましょうよーケチですよーそんなこと言わずにさぁさぁ!あ、ついてきてくれるんですか?ありがとうございます」


「遥、行かない。早く買ってきて」


「……はい」



 なんか俺が悪いみたいになってるし、気づけばパシリにされてしまっているのだった。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 塾行ったら夏休みは一日十時間は勉強しようと言われました……受験生の皆さん。共に夏を乗り切りましょう……

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