第8話 圭さんって実はすごい人?

「受かった……俺受かってるよ……」


 毎朝の朝学習と徹底的指導のもと1週間地獄のような勉強をしたおかげで、なんとか圭さんと同じ高校に入学できた。私立だからめちゃ金かかったけど。


双葉学園ふたばがくえん高校。えらい進学校に来ちまったもんだぜ」


 さて、あとは圭さんをこの校内で探すだけだ。今から入学式だし、ちょうど探すのにはもってこいかな。


「次は、理事長先生の挨拶です」


 暇な時間が過ぎていく。最初は探すのに必死になっていたが、長い長い祝辞やら校歌斉唱やらが続き、もう睡魔にやられてしまいそうだ。なんなら目こそ開けてはいたが意識は半分飛んでいた。




「いいですか皆さん!クールに、美しい高校生活を過ごしましょう!!」


 終始無駄にテンションの高い理事長だったなと思った。でもやっぱり話は面白かったと思う。半分寝てたけど。













「さて、俺のクラスは……と」


 1年7組 34番 美空遥


「わお……ぎりっぎりだな……」


 この学校では、最初のクラス分けはどうやら入試の成績順で決まるらしい。成績1位のやつから1組2組ときて、全部で7組。それも俺は34番。1クラス40人だから、どれだけ俺がぎりっぎりの成績をたたき出したのかがよく分かるクラス分けとなっているのだ。


「ま、これからの伸びに期待ですね」


 最初のクラスでの自己紹介などを済ませ、今日の予定は午前中で終了。午後は部活動見学や食堂の利用ができるらしい。


「今の手掛かりは圭さんが音楽を好むということだけ……実際俺も興味あったし、覗くだけ覗いてみるか」


 この学校に音楽系の部活は軽音部と吹奏楽部の2つ。圭さんはロック系が好きだと言っていたから、恐らくいるならば前者。


「そうと決まれば全力ダッシュじゃ!!」


 俺は昼ご飯も食べずに部室へ直行した。








◇◇◇◇




「そこをなんとか!!お願いします!!」


 なにやら部室から声が聞こえる。何かを頼んでいるのか?





「こっそり覗いてみようかの……あ、圭さんだ。それと……え、土下座してる?」


 圭さん……まさかあなた女王様気質だったの?俺そんな人によしよししようとしてたの!?


「何度も言ってるけど、そういうの別に興味ない」


「お願いします!如月さんの神テクがどうしても忘れらあれなくて!!」


「だから、別にお願いされるようなものじゃない。それに興味ないんだって」


「そこをなんとか!!」


 圭さんの神テク……?は!まさかこれは夜伽の依頼!!だからあんなに必死になってお願いしてるのか……でもそうなると、一度圭さんにしてもらったということ?え?そんなに経験豊富なお姉さんだったんですか!?私聞いてない!!


「おい」


「ひぃいいいいぃぃ!!ななな、なんでしょうか!!」


 いきなり背後から肩をぽんと叩かれる。慌てて振り向けば、紺色ショートボブの美人さんが一人。目つき悪ぃ……こえぇぇぇえええ!!


「盗み見なんて、いい趣味してんな」


「そうじゃなくて、部活見学に来たらなんだか中で声がして、その、入っていいのかわからなくて」


「……ま、あれは戸惑うわな。一緒にいくか?」


「いえ!ま、待ってるんでお気遣いなさらず」


 この人の雰囲気慣れない……気遣ってくれてるし優しいんだろうけどやっぱ目つきこえぇぇぇぇええ。


「そうか。じゃ、また……またがあったら」


「はい」


 そうして美人さんは去っていった。部屋の中ではまだ怒涛のお願いラッシュが飛んでいる。


「もう私帰るから」


「え、ちょっとまだ話は―――


「しつこい人は、私好きじゃない」


「ッ!!………また、来ます」


ヤバイ!さっき土下座してた人がやってくる!隠れるところは……ない!!うぇ!どうしようどうしようどうし―――


ガラガラガラ


「うぎゃ!!」


「ッて―な……どこ見て歩いてんだよ!……って、なんだよ1年の最底辺じゃねぇか。前向いてろよ!」


「ひぃいいっぃぃいいすいませんすいません!!」


 土下座男は息巻いて去っていった。あれ、そっち行き止まり……あ、帰ってきた。


「何見てんだよクソが!!」


「な、ひ、ひどいですよ追撃なんて。あなたが勝手に間違ったのに」


「うるせぇなクソ!!この……この味噌田楽!」


「どんなけなし方だよ!もっとひどそうな食べ物あっただろ!」


 フンとガキ大将のように歩いて去っていく。人生で初めていわれたわ。なんだよ味噌田楽って。俺をどう見たら串で刺されて味噌かけられてるように見えたんだよ。


「全く………あいつの全個人情報晒上げてやる……」


「あなたこそ、私のストーカー?」


「あ……」


 そうだった。圭さんがいたんだった。


「まあいい。ちょっと話がある」


おいでおいでと、圭さんが部屋から手招くのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る